Mysterious Questions In The World

世界のミステリーをご紹介します。

チベットの不思議Part 5/5

いよいよ「チベットの不思議:チベットの1年」も最終回となりました。
今回も全文翻訳でご紹介します。
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凡そ600年の間、ペル・コール僧院は仏教の修練と瞑想の中心だ。
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しかしチベットはもはや近代化から隔離された存在ではなく、僧院も例外ではない。
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最終回となるこのエピソードでは、3人の僧侶の追跡を通じて、この地での暮らしがどのように変化してきたかを見ていく。

ツルトゥリムは政府の厳格な管理の下での僧院の運営の現実に直面しなければならなかった。
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一人のかなり老齢の僧侶ドンドゥルップDondrupは人生の終わりに近づき、次への準備を始める。
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一番若い僧侶はツェフンTsephunだ。師匠Masterでもあり教師teacherでもある老僧ドンドゥルップとツェフンの関係は、救いようがない所まで落ち込んでしまう。
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ツェフンは最悪の不名誉に直面しようとしていた。
「それが彼が悪いことをした証拠だ。彼は誰かを妊娠させちゃったんじゃあないかって俺は疑ってるよ。」
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A YEAR IN TIBET ; A tale of Three Monksチベットの1年;3人の僧侶の物語
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ペル・コール僧院はチベットで三番目に大きな町ギャンツェGyantseの生活の中心にある。
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50年以上、チベットは中国共産党の厳しい指導の下に置かれている。この期間、僧院での生活は劇的な変化を遂げている。
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僧院長代理はツルトゥリムTsultrimだ。「私は1986年、17歳の時にペル・コール僧院にやってきた。(mh:ってことはこのフィルムの取材時は37,8歳ってことです。) 1996年に僧侶たちで造られている委員会の委員長になった。今は僧院長代理で、総務と経理の責任者だ。」
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経理責任者として彼は帳簿の収支を管理しなければならないし、僧院参拝料や寄付の中から僧たちに手当を支給しなければならない。一番若い僧の月手当は大体20ポンド(4千円≒220元)だ。最長老の一人ドンドゥルップは70ポンド(1万4千円)以上もらっている。70年前に彼が僧侶になった時の手当と比べれば大きな差だ。
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ドンドゥルップ「私の家族は、私が7歳の時に僧院に送り込んだ。以来、師匠に仕えて来た、それだけだった。先輩の僧たちの世話もしなければならなかった。でも12歳までには経典を暗記してしまったんだ。師匠は私が経典の勉強をしていないと私をひどく殴った。」
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70年修行したドンドゥルップは、今はツェフンの師匠だ。彼の仕事は仏陀の教えを彼の若い弟子に教え繋ぐことだ。
ツェフン「俺、いつも僧侶になりたいって望んでた。学校は嫌いだったんだ。いつも学校からは逃げ出していた。」
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ドンドゥルップがいなかったらツェフンは僧院に入れなかっただろう。
ドンドゥルップ「ツェフンは私の親戚の子供だ。見習いとして採用してくれるよう、わしが僧院に申し込んだんだ。それが彼の将来のためになるだろうと思っていた。僧院に入れるには僧院のトップに頼まなきゃぁならなかったんだ。」
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中国政府はチベットにおける僧院の影響力を注視している。僧院を監督する一つの手段は僧侶の数を厳格に制約することだ。ペル・コール僧院には1千5百人の僧侶がいたのだが今は80人以下になっている。僧院長代理のツルトゥリムは大きな儀式や行事を行う必要がある都度、僧侶を集めるのに奔走している。今日、将来を託されるであろう僧侶は全て地方政府の監視対象下にある。この監視は数年かけて行われる。
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3年前にツェフンが見習いとして僧院に入ったのは家族には大きな名誉だった。しかし、よい僧侶になるだろうということを僧院の関係者に証明する必要が残されている、でないと正式な僧侶とは認められないのだ。

ツェフン「師匠、座っていて下さい。私がお茶を持ってきます。」
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ツェフン「師匠は私のおじさんってことになってるけど、本当はそうじゃあない。父さんのおじさんだから大伯父って呼ばなきゃぁいけないんだ。私は彼のために竈(かまど)の灰を取り除いたり、水を運んだりしている。彼は私が入れるバター茶は入れ方がおかしいから下痢になってしまうっていつも怒るんだ。」
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師匠の世話をしていない時、ツェフンは神聖な経典を学ばねばならない。
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ドンドゥルップ「聖典をもう一度読み直して!」
しかし、このティーンエイジャー(ツェフンです)にとって集中するのは簡単ではない。それが後に重大な問題に繋がっていく。
ドンドゥルップ「そんなに急いで読んじゃぁ駄目だ。もっとゆっくり読め。」
ツェフン「はい!」
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ツェフン「俺、経典の内容はよく判らないんだ。師匠は内容についてほとんど教えてくれない。お題目のように唱えているけど、分かってないんだ。」
彼が学ぶべき聖典の数は数百もある。

ツルトゥリム「この棚には大体1千冊ある。多くについては暗記していて何度も繰り返して読んでいる。これらのスートラ(サンスクリット語で書かれた経典)は一冊づつ金粉を使って綺麗に手書きされているので、あまり使いすぎるとボロボロになってしまうから、10年に一度しか使わないんだ。」
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1960年代、文化大革命は中国中を混乱に陥れた。毛沢東の赤軍は暴挙を尽くし、僧院の古くからの経典の多くも損傷を受けた。
ツルトゥリム「これらは我々が修理しながら造った新しいスートラだ。まだ不完全だ。文化大革命の間に破損されてしまったんだ。だからこんな状態で保管されている。途中のページがなくなってしまったものもある。」
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それは中国の誰にとっても大きな痛手の時期だった。

ドンドゥルップ「あの時、全ての僧院は破壊されたんだ。どうすることも出来なかった。革命中は世の中全てが変化していた時代だからね。変革の波を止めるものは何も無かった。私にとって最悪だったのは、刑務所に入れられたことだ、16年間もね。刑務所の台所でずっと働かされていたんだ。勿論、経典を読む時間なんかは与えられなかった。許されていなかった。経典に書かれている言葉を口にすることすらできなかったんだ。」
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ツェフンは文化大革命中のドンドゥルップの体験を理解するには若すぎる。

ドンドゥルップ「私の世代の人はテレビなんて見ることが出来なかった。経を唱えることに集中しなけりゃぁならなかったんだ。昔はどこでも、規則が厳しかった。テレビ、あれはだめだ。だから私はテレビは買わない。ツェフン、もし経を唱えられなけりゃぁ僧として役に立たんぞ。」
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ツェフン「私が経を正確に唱えない時とか映画にいったりすると師匠は叱り飛ばすんだ。」

経を唱えるのは僧侶の日常において最も重要なことだ。
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毎朝、夜明け前に読経は始まる。
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若い僧侶が突然、亡くなった。ツルトゥリムは彼の多くの仕事の一つとして、葬儀の段取りをしなければならない。
ある僧侶「あの笛の音は我々の同僚が亡くなったので明日、集まるよう、僧侶全員に告げるものだ。笛は特別な出来事がある時に僧侶を集めるために使われるんだ。」
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今回行われる鳥葬sky berialはツェフンには初めてのものだ。

葬儀の朝になった。
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鳥葬を担当する責任者masterは遺体を引き取る準備が出来ていた。
鳥葬責任者「死者の魂は既に遺体を去っている。チベット人なら遺体は埋めたり焼いたりしない。徳meritを積み上げるためにハゲワシに与えるんだ。徳を積み重ねること、それが全てなんだ。」
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この瞬間が死と再生death and rebirthの間の注意が必要な時だ。仏教徒は死者の魂が再び生まれるまで7週間必要だと信じている。
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死者の親戚のものは葬儀の実態を撮影しないように我々取材班に頼んできた。彼等は死んだ僧の魂が撮影の様子に興味を持って来世への旅立ちを遅らせるのではないかと恐れているのだ。

鳥葬責任者「俺たちは仕事をしている最中も話したり笑ったりしあっている。楽しくやっているほうが死者が旅立ちやすくなるんだ。」
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家族は誰も葬儀には参加しない。彼らが嘆くことで魂が呼び戻され、来世への死者の旅立ちは遅れてしまうのだ。
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鳥葬責任者の遺体解体の手際は熟練したものだった。
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鳥葬責任者「もし俺たちがきちんと仕事をしないと、ハゲタカたちは食べ残す。そうならないようひき肉団子みたいに、ミンチにするんだ。最初にあばら骨や軟骨を与える、食べづらいからね。次は内臓。そして最後に肉だ、ハゲタカにとって一番の御馳走の部分だ。御馳走を食べ終わったら直ぐに飛び去って行く。」
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初冬、チベットでは巡礼の時期だ。
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ドンドゥルップは人生の終りに近づいている。しかし巡礼をする体力が残っている限り、徳を積み上げるために訪れたい場所はいくつもある。彼はツェフンが僧としての資格を得るには一皮むけなければいけないことも知っていた。そこで2人は一緒に巡礼に出ることにした。しかし、その前に、2人とも体裁を整えておかねばならない。
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ドンドゥルップ「私が言った所の髪を剃れ。注意してな。もっとさっと剃れ!」

ツルトゥリム「ツェフンは好く師匠のために働いたり面倒みたりしている。他の僧侶とも仲良くやっている。時々、町の喫茶店に仲間と行くようだ、少し変わりつつある。でも、ただ店に時々行くだけで、悪いことはしてはいない。」
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ドンドゥルップ「まずお前の髪の毛を洗え。」
ツェフン「だめだ、水が熱くなりすぎてるよ。」
ドンドゥルップ「いいから言ったとおりにしろ!」
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ツェフン「熱すぎるよ!」
ドンドゥルップ「いいから、早くお前の髪を洗え。早く!」
ツェフン「熱いよ。」
ドンドゥルップ「お前は嘘つきだ。髪の毛を剃るって言ったのに、まだ剃ってない!」
ドンドゥルップ「石鹸を付け過ぎだ。もう付けるな!こっちへ来い。」
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仏教徒の僧侶や尼僧は物質世界material worldを放棄した証として髪を剃らねばならない。
ドンドゥルップ「痛いか?新品のカミソリの刃を使ってるぞ。動くな、じっとしてろ。」
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彼等は有名な僧院に向けて出発する。しかしツェフンにとって今回の旅には別の目的もある。
ツェフン(カメラマンに)「ラサにも行くのかな?町に出ていくと、師匠はいつも私に嫌味を言うんだよ。この靴、10元(180円)したんだ。師匠がずっと前に買ってくれた。でも女物なんだ。」
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「叔父さん、待ってよ。」
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ラサに行く前にドンドゥルップはチベットでも最も古くて最も重要な僧院の一つに巡礼に行くことにした。
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ガンデン僧院だ。600年前に建てられた。
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文化大革命では6千の僧院が破壊行為を受けていた。この寺院もその一つだが、完全に破壊し尽くされしまった。しかし、現在は、ほとんどの建物は復旧されている。

ドンドゥルップ「見てみろ、ガンデン僧院の荘厳さを!修行の中心ともいえる立派な僧院なんだぞ。ここを訪れるのは楽じゃぁない。感謝して経典の学習に打込めよ。」
ツェフン「ラサから歩いてとどのくらいかかったの?」
ドンドゥルップ「3日だった。」
ツェフン「3日も?」
ドンドゥルップ「そうだ、3日間、ずっと歩くんだ。」
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ドンドゥルップ「経典をしっかり勉強して優れた、いい僧侶になれよ。」

ドンドゥルップ「初めて来たのは僧院が破壊される前だ。以降、何回か来ている。今回は革命後、初めてだ。」
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ガンデンの貴重な仏像や絵画の多くは文化大革命の間に失われてしまった。
ツェフン「ギャンツェと比べたら新しい仏像や建物がとても沢山ある!」
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ガンデンはチベットの3大修行僧院の一つだ。現在のダライ・ラマは国外に逃げ出す1年前の1958年、ここから旅立った。最盛時、ここには6千人を超える僧侶がいて修行していたが、今は数百人しかいない。
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次の目的地はラサ拉薩だ。ツェフンには初めて訪れるチベットの首都だ。町は彼に強い影響を与えることになる。
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ドンドゥルップ「もうこの巡礼を続けるには年を取り過ぎた。もう直ぐお迎えが来る。最近は私も穏やかに暮らせるようになったのでこの巡礼ができたけれど、もう最後かも知れないなぁ。」
ツェフン「何処を見ても巡礼者ばかりだ。大勢がお祈りしている。」
ドンドゥルップ「当然だよ。」
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ジョーカンJokhang寺院は仏教がこの地に伝わってきた7世紀からラサの中心地にある。今日、チベットにおける最も重要で神聖な巡礼地の一つだ。
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ツェフン「ジョーカン寺院やほかの尊いお寺にこれたのはすごくよかった。師匠と巡礼するのはとても楽しいよ。」
ドンドゥルップ「きちんとお祈りしろよ、お前。」


ツェフン「私は師匠が行くところならどこでも行く。それにバルコルBarkor通りにも行ってお菓子なんかを沢山買った。」
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ラサは若い駆け出しの僧侶にこれからもずっと続くだろう影響を与えたようだ。しかし、ドンドゥルップはツェフンをラサに連れていったことを、以後ずっと後悔することになる。
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ギャンツェ・・・
年末が近くなりツェフンは晴れがましい旅からいつもの生活に戻っていた。
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僧侶たちはチベットの新年ロゥサLosarの準備をしている。ツェフンも手伝ったりしているようだ。
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しかし、巡礼から戻って以降、師匠と彼の若い弟子の関係は悪くなった。
ツェフン「彼はいつも俺のこと、文句を言うんだ。俺が捧げものを整理している時もずっと言い続けてる。朝から晩まで俺のこと、ぶつぶつ怒ってる。ちょっと威張り過ぎだよ。」
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僧侶たちはトーマtormaを造り始めている。バターなどで造った花の絵などが描かれた飾りで新年を祝うものだ。ツルトゥリムは例年通り責任者になって飾り付けを指揮している。
ツルトゥリム「この寺ではいつも1千キャティCatty(500Kg)のバターを使う。水は使わない、バターだけだ。」
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ツルトゥリムはラサから戻ってからのツェフンの行動に心配し始めていた。
ツルトゥリム「ツェフンはいつも外出している。僧侶の数が少なくて困っているけれど、我々には僧侶を採用する権利はない。でも行いが悪い僧侶には僧院を出ていくよう伝える。ツェフンはきちんとやるし修行も一生懸命やると約束してくれた。」
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新年が近づいてきた。ツェフンは久しぶりに家に帰ることになった。ギャンツェから少し離れた村の大きな農家だ。しかし、師匠からは簡単に逃げることは出来ない。
(mh:師匠もツェフンと一緒にツェフンの家に来てるのです!)

ツェフン「氷が割れ始めている。注意しろよ。倒すなよ。引っ張るのをちょっとやめて!待って、待って。氷が割れちゃう!」
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ツェフン「これ、おれの弟のダワ・ツェリンQawa Tsering。」
ツェフン「どいて!ぶつかっちゃうよ!」
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ツェフン「これが俺の母さん。干支は蛇だ。」
母「私?大体42歳よ。」
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この地方の多くの女性たちと同じように、ツェフンの母も3人兄弟と結婚している。3人の誰もがツェフンの本当の父親の可能性がある。
ツェフン「俺には2人のおじさんと1人の父さんがいる。これはおじさん。父さんみたいな人なんだ。」
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「これはおばさん。父さんの女の兄妹。おばさんは家事をする。」
おば「これ、撮影しちゃぁ駄目よ!汚れてるから。」
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おじ「ツェフン、火に少し薪(まき)を焼(く)べて!」

ツェフンの父親はペル・コール僧院からドンドゥルップと他の僧侶何人かを家に連れてきていた。
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父「僧侶たちがお祈りしてくれれば悪霊や不幸が逃げていくんじゃぁないかと思う。それにチベットの慣習なんだよ。毎年1回は僧侶たちに来てもらっている。」
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mh:間違いなく、貴方はツェフンの生物学的な父親だと思います、とても似てますよ。でも、兄弟なら誰も似ているだろうから・・・

余裕のあるチベット人なら仏陀を祝福するために年一回は僧侶を家に招待している。僧侶にとっても普段の修行と異なる何かを得たり、御馳走にあずかれる好機でもある。
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おじ「ツェフン、もう少しミルクをもってこい。」
ツェフン「わかった。」
おじ「少しミルクを注げ。」
ツェフン「わかった。少し多すぎたかなぁ。」
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父「俺たちはみんなツェフンが良い僧侶になって僧院のために好いことをしてくれるのを望んでいる。それで私のおじさんに師匠になってくれるように頼んだんだ。」
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「叔父さんも年を取ってきたから、TVのような新しいものについては古臭い考え方をしている。その一方でツェフンは近代的になってるんだ。私はツェフンの今の姿にとても満足しているし自慢に思っているよ。」
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mh:前のブログでも登場していますが、やっぱ、いい父さんです!

新年は終わった。ドンドゥルップはもう一回、最後となる巡礼をしたいと考えている。かねがね行きたいと思っていた場所だ。
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ドンドゥルップ「これから行く湖はチベットでも最も神聖な4つの場所の一つだ。そこでお祈りをするんだ。これまで一度も行ったことはない。」
ツェフン「俺、車の中じゃぁ眠れないよ。運転手さん、なにか車酔いの薬もってる?」
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ツルトゥリムは彼の兄に会うためにラサのポタラ宮に来ていた。
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ツルトゥリム「我々の祖先はこの寺を造るために一生懸命働いた。今、我々には近代技術があるけれど、祖先達の薬に相当するものはないだろう。今ならセメントを使うけど、この寺は土と木だけで建てられたんだ。建物の中も外も美しい。」
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ツルトゥリムの兄ゲサンGesangはポタラ宮で警護を担当する上級僧侶だ。建物は文化大革命時、破壊行為で惨めな状態だった。ここにある無傷の数千の貴重な像やタペストリーは難を逃れた。
a1173.pngゲサン「これはお釈迦様。金塊で造られている。隣はダライ・ラマ5世。これも金塊だ。」
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「この図はダライ・ラマ5世が建てた寺院を訪れている様子だ。」
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ナムツォ湖Lake Namtsoはチベットで最も神聖な場所の一つだ。大体、海抜5千mにあり、世界で最も高地にある塩水湖だ。
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これがツェフンにとって僧侶になる意志を師匠に示す最後の機会になる。
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ドンドゥルップ「見てみろ。湖は四方を山で囲まれている。とても綺麗な湖だよ。」
ドンドゥルップはダルマDharma(注)について何かをつかんでほしいと思っていた。
Wikiダルマ:仏教における法で、「秩序」「掟」「法則」「慣習」など

それは単に仏教の経典を学び訓練を積むといった以上のものだ。存在の基本法則の深淵を理解することだ。ツェフンのようなティーンエイジャーに簡単に説明して教えられるようなものではない。

ツェフン「俺たちは聖なる湖に祈りを捧げるためにやってきた。聖なる湖に来た?他の場所と変わらない感じがしているよ。」
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ドンドゥルップ「ツェフン、急いで戻ってこい。」
ツェフン「多分ここの方が面白いかな、セラSeraとかドレプンDrepungの僧院に行くと、2日目には飽きちゃう。でも、そことここは同じくらい面白のかも。」

ドンドゥルップ「ここにいると祝福される。特別な場所だ。周りの山々には霊力がある。」
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ドンドゥルップ「この世は4つの要素で成っている。土、水、火、空気だ。我々はこれらを調和させてバランスを取るためにルンタlungtaの祈りを捧げる。もしダルマが正しく行われれば悟りに到ることが出来る。つまり、それが悟りへの道だということだ。」
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ツェフンはギャンツェの僧院に戻って春の大掃除に参加している。
上級生「あとはお前がやれ。」
ツェフン「はい」
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湖への巡礼は大成功とは言えなかったようだ。
ドンドゥルップ「ツェフンへの期待は消え失せてしまったよ。」
ツェフン「おぉ、痛っ。」
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ドンドゥルップ「ツェフンの名前は僧院の僧侶の名簿にはない。まだ登録されていないんだ。あいつを僧院から追い出したって何も問題ないんだ。」
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ドンドゥルップは厳しかった。彼はツェフンの部屋である悪事の証拠を見つけ、ツェフンの父親に僧院に来るように伝えた。これでツェフンの見習い修行は打ち切られることになるかも知れない。
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ドンドゥルップ「おぅ、やって来たな。」
ツェフンの父「はい、おじさん。」
ドンドゥルップ「言いたい事があれば何でも言え。」
ツェフンの父「おじさん、まずは座ってください。」
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ドンドゥルップ「撮影隊が来る以前、ツェフンには経を沢山上げるように指導していた。彼は沢山の仏教儀式にも参加した。だから沢山の経を上げることが出来るようになった。で、最近、撮影隊も一緒にラサに行ったんだ。そこで色々な刺激が町に溢れているのを見た。最近は、夜にはテレビを見るようにもなった。番組はみんな男と女の薄汚い関係しか流していない。ツェフンは今はとても反抗的だ。」
父「申し訳ありません。ツェフンは師匠の言う通りに行動しなければいけないと私も思います。」
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ツェフン「ちょと外に行ってくるよ。」
父「師匠のとこに行って、許可を貰えよ。」
ツェフン「外へ行ってくる!」
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ドンドゥルップ「ラサから帰って以来、ツェフンは外に行って遊んでばかりいる。僧院にいることははほどんどない。経を読むつもりもない。わしは何度も注意しているが、彼はいつも町へ出かけてたむろしている。朝のお茶を飲む時間すら持ってないんだ。」
父「申し訳ありません。」
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ドンドゥルップ「ここでお茶も食事もしない。なぜならポケットに一杯、金を持ってるからだ。それは寄付金の一部で僧院から支給されたものだ。時々、わしにも少しくれるが、残りは一銭もくれない。」
父「ツェフン、本当か?」
ドンドゥルップ「見せたいものがある。ツェフンはこのズボンを履いてるんだ。」
ツェフン「それ、借りたものだ。」
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ドンドゥルップ「ツェフンは夜外出する時、このズボンを履いていく。まだある。女の子用のヘアブラシだ。ヘア・クリップもいくつか買ったみたいだ。ニビアンNibianって呼ばれる誰かがいるみたいだ。ツェフン、それを返せ!見てみろ、あいつを。 それに、ツェフンはこれをお祈りの場所にも持ってった。これらみんなだ!」
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父「どうしてなんだ?」
ツェフン「ロテンLotenも持ってるんだ。彼と一緒に買ったんだよ。」
父「ツェフン。お前の師匠は、お前が使わないとしたら何故買ったのかって聞いてるんだよ。」
ドンドゥルップ「もしツェフンが師匠が代らないと駄目だとか、この修行部屋とは違う部屋に行きたいとか言ったら、蹴り出してやるつもりだ。わしは責任を取りたくない。ほら、出て行っちゃっただろ。」
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ドンドゥルップ「自分が犯した悪事を聞きたくないからだ。ツェフンがよく通っている喫茶店にニビアンっていう女の子がいるのは間違いない。」

厳しい時はツェフンはいつもうどん店に引きこもる。
ツェフン「時々、おれ、ここにくる、一人で、時には友達と一緒に。食べたりお茶を飲んだりするんだ。ほぼ毎日かな?」
女の子「一日中じゃぁないでしょ。夕方の3,4時間だけよね。」
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ツェフン「食事が済むと帰るんだ。」

ツェフンの父親は息子の将来について沢山の心配事を持っていた。
父親「師匠は怒っている。ツェフンは明らかに変わったと思う。」
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「彼はまだ若くて繊細だ。親なら子供達が幸せでいてほしいと気を配るのが当然だ。子供は世の中と一緒に変化しているんだ、だからといって今の僧侶のほとんどが彼のようかどうかは知らないけれど。」

ツェフン「おー、ノー!あんた俺の弾丸2個使っちゃったよ!今度は俺にやらせて!」
女の子「これを振るんでしょ?」
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ツェフンの父は正しい。時は変化している。若い僧の行動はツルトゥリムの悩みの種だ。そうは言っても、仏陀の誕生祭には僧院にわずかに残る僧全員を動員して対処しなければならない。
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ツルトゥリム「これはチャム踊りCham Danceに参加する人達と曼荼羅を造る人達のリストだ。聖なる月“サガ・ダワSaga Dawa”の第1日目から第18日目の間、活動に参加する僧たちにこれを見て役割を確認してもらうんだ。」
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僧侶たちが、誕生祭の中心的な出し物の曼荼羅を造っている。
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曼荼羅は、瞑想している間、僧侶たちが仏陀の教えに意識を集中できるよう手助けし、神々の祝福を引き出すものだ。レイアウトは幾何学的に正確でなければならない。
ツェフン「これが回転中心線だ。よし、内側に線を引け、そうだ!」
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僧「ここに緑を?」
ツェフン「緑は白の後だ。」
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外側の円の線上には現世で苦悩している人間のイメージが描かれる。
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模様は見る人の心を徐々に曼荼羅の中心に引き付けていく。中心では僧侶たちが「虚空empty」つまり精神的な悟りへの道の始点、の意味を瞑想している。
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ツェフンの部屋で少女のヘアピンが見つかった事件はドンドゥルップにとっては最後の決め手となった。
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ドンドゥルップ「わしはもう彼の面倒は見ない。家族には彼を家に連れ戻すよう伝えた。ツェフンがいるとイライラする。」
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「もう私の前から消えてほしい。それしかない。」
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僧侶たちはこれから仏陀の誕生祭の儀式チャン・ダンスを始めようとしている。
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ツルトゥリム「そろそろ大勢の参拝者がくるから、早く段取り通りの終わらせておかねばならない。」
しかしツルトゥリムは僧侶の数が少な過ぎるという問題を抱えていた。おかげでツェフンは現時点では追放の危機からは逃れている。
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ドンドゥルップ「チャム・ダンスだけがツェフンを僧院に残している理由だ。わしは彼をしつけ、金は預かっておこうとしてきた。しかし、もう駄目だ。この祭りが終わったら彼を僧院から追い出すつもりだ。僧院には彼のような不良はいない。彼が最悪だ。」
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ツルトゥリム「ツェフンはまだ子供だ。だから時々外出している。私を見ると走って逃げていく。今の彼の行動を見る限り、悪い僧侶になるとは思わない。彼が師匠の世話をきちんとしていないことや時々は一晩中、僧院の外で過ごしているのは知っている。私はいつも彼の行動に注目していくつもりだ。」
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チャム・ダンスは数日間、毎日行われる。昔から行われている、菩薩たちから慈悲を引き出すための踊りだ。
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ギャンツェの人々にとって大きな年中行事になっている。日々の忙しさから離れて一息いれる時でもある。
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僧侶への感謝と僧院への畏敬の念を示すチャンスでもある。
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ツルトゥリム「ダンスはとても好かった。2,3日しか練習できなかったけれど、みんな上手に踊ってくれた。」

そろそろ釈迦の誕生日の前日サガ・ダワSaga Dawaの終わりが近づいている。
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3つの曼荼羅を造るために40人の僧侶と5日が必要だった。それを一瞬で壊してしまうのは束の間の生命への誠意を思い起こさせるためだ。
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ツェフン「壊すのは残念だけど、また来年も作るんだからいいんだ。」
「終わった!明日は寝るぞ。次の日も、その次の日も。」

5月の終わりになった。チベット暦で第4月の満月の前夜。
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聖なる月サガ・ダワのクライマックスの時だ。ツルトゥリムにとっては一カ月続いた忙しい仕事も、もう直ぐ終わる。
ツルトゥリム「第17日はタンカthangkaを倉庫から運び出す日だ。講堂を通らなきゃぁならないからタンカは適当な長さに巻き上げとかなきゃぁならない。第18日の夜明けには飾らなきゃぁいけないからね。」
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ツルトゥリムには最後の仕事が残っていたのだ。ペル・コール僧院のタンカを吊るす仕事だ。それは1トン以上もある二つとないタペストリーだ。村人たちが手伝いにきていた。丘の上にある僧院の壁の直ぐ下まで斜面を運び上げねばならない。
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タペストリーはテニスコート4面の広さがある。
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夜明けまで1時間になった。ギャンツェの人々はすでにやってきて祈りを捧げている。
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これは仏陀が生まれた日、仏陀が悟りを開いた日、仏陀が亡くなった(入滅)の日を敬う三重の祝いだ。
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積み重ねる一つ一つの徳meritと巡礼の一歩一歩は仏陀の誕生日には10万倍になると言われている。
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釈迦の教えを学び、巡礼を繰り返して、信者は来世に旅立つ前に更なる徳を獲得していくのだ。
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ツルトゥリムはサガ・ダワの準備で一生懸命働いた。しかし、結果には失望している。
ツルトゥリム「今日、参拝に来た人はとても少なかった。いつも1万人以上だが今日はかなり少ない。」
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学生や政府関係の仕事をしている人は宗教的な集会に出ることが許されていない。だから今日も人数が少なかったのだ。
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それは中国政府がチベット人を密かに操作し管理する方法の一つだ。中国による統治から50年以上が経過した今、多くのことが昔よりも改善されてきた。以前よりも金持ちで、健康で、良い教育も受けている。しかし、彼等は以前より幸せだと言えるのだろうか?


中国の他の場所と同じように、チベットの人々は自分たちの生活の一部始終を管理する政府について、別の選択肢は与えられていない。それにも拘らず、多くのチベット人が心の深い処に仕舞い込んでいる伝統や信仰に従って生きる道を求めることを政府は止めることが出来ていない。
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しかし・・・世の中の変化は速い。ツェフンについても事態は素早く変っている。
ツェフン「俺、別の師匠にしてほしいんだ。とても腹が立っている。今の師匠は俺がいつも外で遊んでばかりいて僧院でお経を勉強してないって言うんだ。彼は俺のこと、とても怒っていて俺をロサン・ラLosang Laの所に送るって話した。」
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ツェフンとドンドゥルップは師弟関係を解消した。しかし僧院は僧侶の数がとても不足しているのでツェフンを抱えておき、新しい師匠としてロサン・ラを当てることにした。
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多くの点でドンドゥルップとツェフンの間の緊張はチベット全体で起きている変化を反映したものだろう。ドンドゥルップは決して近代の社会に合わせることはしない。従ってその習慣を受け入れることはない。ツェフンは新しいチベット人だ。
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チベットは21世紀を急速に取り込んで変化し始めている。これからはツェフンとドンドゥルップは異なる道を歩んでいくのだ。チベットの他の場所でも起きているように、彼等の間の溝も深まっていくばかりだろう。
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BBC Documentary A Year In Tibet ; A Tale of Three Monks
https://www.youtube.com/watch?v=-iv4FDY58T4

これをもってBBC “ A Year in Tibet”のPart1からPart5までのシリーズの大団円です!!!
最後まで見て頂いた皆さん、お疲れ様です。ありがとうございました。

撮影は2006~2007年ですから9年程前でツェフンも今(2016年1月14日)は25歳です!彼はまだ僧院に残っているのでしょうか?ツルトゥリムは僧院長代理で頑張っているのでしょうか?ギャンツェGyantseのペル・コール僧院を訪れ、彼等の消息を知りたいとの気持ちが強くなりました。もし、それが実現したら、必ずや皆様にも結果をご報告させて頂きましょう。

BBCドキュメンタリー「A Year In Tibet」をブログ化し終えた今、これで終わってしまうのは何故か寂(さみ)しい気がしています。そうは言っても、お釈迦様が仰るように、万物は生じた以上、消滅するのが真理というものです。最後にもう一度、懐かしい人物に登場いただいて、このシリーズの大団円とさせて頂きます。

タンマイTangmai村の祈祷師:ツェデンTseden
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ツェデンの兄:ドンダンDondan
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2人の妻:ヤンドゥロンYangdron
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ギャンツェのホテル・オーナー:ジェンザンJianzang
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タンマイTangmai村の共産党員:ブートゥリーButri
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カーマーイKarmai村の医師:ラームーLhamo
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ギャンツェの人力車手:ラクパLhakpa、その恋人:ダドンDadon
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ラクパの甥オザOzerの母:ヤンチェンYangchen
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実家のトラクターを運転する若き見習い僧:ツェフンTsephun
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ツェフンの父
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ペル・コール僧院長:チョエフェルChoephel
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僧院長代理:ツルトゥリムTsultrim
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ギャンツェGyantseのペル・コール僧院と参道(Google Earth)
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(A Year In Tibet大団円)
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