Mysterious Questions In The World

世界のミステリーをご紹介します。

エジプト死者の書の不思議

先週のチベット死者の書にひき続き、チベット死者の書より3千年以上も前の紀元前2千6千年頃にエジプトで生まれたエジプト死者の書についてご紹介しましょう。

エジプトといえばピラミッドですが・・・ピラミッドといえば、南米ペルーのカラルで1994年、女性考古学者によって掘り出されたピラミッドは紀元前3千年頃のもので、古代の南米にもエジプトに匹敵するような文明があったことに世界中の考古学者は驚きました。
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アンデス山脈から太平洋に注ぐスペ川の河口から25kmの一帯の砂漠で見つかりましたが、当時は緑豊かな場所だったはずです。ここのピラミッドは墓ではなく、寺院だったようです。

更には、6月に訪れたメキシコでは、ユカタン半島を中心に、ジャングルの中に数百のピラミッドが造られていました。マヤの有力な都市国家パレンケPalenqueに残る、ピラミッドのひとつです。
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最上段の祭殿で、地下に延びる階段が見つかりました。その最下段には玄室にあって、石棺から翡翠の面を被った王の遺体が見つかりました。首都メキシコ・シティの国立人類考古学博物館に展示されていたお面の写真です。
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博物館で案内してくれた日本人ガイドによれば国宝級とのこと。古代マヤ人はシバルバという死後の世界が地下にあると信じていたということで、お面専用の展示室は地下に造られていました。永遠の安眠を守ろうとしたのでしょう。マヤでは、パレンケのこのピラミッドのように遺体を収容するピラミッドは数十程度しか見つかっていないようで、残る数百のピラミッドは単なる寺院だと言われています。

一方、紀元前3千年に生まれたエジプト帝国に残る全てのピラミッドは王の墓として造られました。エジプト人は死ぬと死者の国に行き、死者の国を司る神によって裁かれ、楽園で暮らすか、または心臓を食べられて完全なる死に到ると考えていたようです。この思想はバビロンに幽閉されたイスラエル人が紀元前5,6世紀に編纂したヘブライ聖書に引き継がれ、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教でも全ての死者は世界が崩壊する日に蘇り、神による最後の審判で、天国に行くか地獄に落ちるか裁かれるという物語が生まれることになった、という見方があるようです。

マヤの死後の世界は地下にありましたが、エジプトのあの世は、神々の暮らす天国か、葦(あしreed)が茂る緑豊かな土地か、地下のいずれかにあるようです。無事に死後の世界に辿り着き、神の裁きを受け、そこで永遠の命を得るための“ガイドブック”で、玄室に到る通路の壁や棺などに記されたり、はたまたパピルスに書かれて墓に納められたりして、死者を無事にあの世に導いたというエジプト“死者の書”とはどのようなものか?それをYoutubeフィルム「The Egyptian Book Of The Deadエジプト死者の書」からご紹介いたしましょう。

なお主要な登場人物のアーネスト・アルフレッド・トンプソン・ワリス・バッジ卿Sir Ernest Alfred Thompson Wallis Budge (27 July 1857 – 23 November 1934)はフィルムでは俳優が演じていますが、実物は次の写真の人物です。
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恐らく晩年の写真で、エジプトで活躍(暗躍?)していた時は30歳でした。
・・・・・・・・・
およそ4千年の間、続いた物語だ。泥沼のような論争を巻き起こした。それが伝えんとすることはどの時代でも通用する不思議なものだ。エジプト死者の書はあの世に導くための古代エジプトの手引きだ。恐らく世界で最も古い宗教的な書類だろう。異色の考古学者がそれをエジプトから盗み出したと言う。恐るべき死後の世界への旅に関する本だ。エジプト死者の書は文明と同じくらいに古い物だ。最後の審判の概念が最初に現れた本だ。本は何千年もの間、人類が抱き続けて来た質問に答えてくれるかも知れない。
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ミイラ・・・古代文明のミステリアスな遺物の一つ。彼等は長く続いた時の流れや秘密を囁きかけながら、古代の布の中に巻き込まれている。誰もが知っているが、しかし、この世のものとは思えない。誰もが死すべき運命にあることを思い起こさせる一方で、永遠の生命を約束しているかのようだ。
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ミイラは遠い時代の偉大な不可思議の唯一の遺物だ。古代エジプト人は広大で複雑なあの世の存在を信じていた。ミイラ化された死体はある一つの手引き“エジプト死者の書”によって、別の世で復活することを望んでいる。死者の書は、古代エジプトでミイラ化された死体と一緒に墓に埋葬された巻物に付けられた名前だ。
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スタート助教授「死者の書は死者のための、一種のガイドブックだ。第8~80(?)章には死者があの世への旅と永遠の命を得る過程が書かれている。」
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(mh:事前にお知らせするのを忘れていましたがエジプト死者の書には192の章chapter/spellがあり、どの章を組み合わせて自分のガイドブックにするかは生前に自分で、又は死後に関係者がえらんで編集し、あの世への副葬品にしていたようです。)

作家マルコム「それは間違いなく不思議な書だ。幾つもの章から構成されていて死者があの世へ旅発ち、永遠の命を得るためのものだ。」

ザヒ・ハワス博士「それは死者のための書で、あの世で出くわすことを教えてくれるものだ。だから死者の書と呼んでいる。それはとても重要な本だ。何故ならそれは永遠の命に関する疑問なのだから。」
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昔から、古代エジプト人は、現世よりも来世の生活の方に関心を示していたという。来世の方がずっと長く続くのだから。
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紀元前1250年、今から3千年以上も昔の第19王朝時代のテーベThebes、今のルクソールLuxor。そこで歴史書でアニーAniとだけ記録されている男の物語が始まる。

アニー「私の心よ。あの世で私を欺かないでくれよな。」
友人「ここから離れた方がいい。死はまだ先のことだ。」

アニーは紀元前1600年から紀元前1200年まで続いた新王朝の繁栄の中で生きていた。
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輝かしい軍人のファラオたちがヌビアからシリアまでの土地を征服していた時代だ。ラムセスとかセティといったファラオは巨大な王宮や壮麗な宗教寺院を造っていた。アニーは裕福な生活を享受していた。この時代、人々は命と死後の世界という哲学的な問題について考え始めるようになっていた。

アニー「女房の父が死んでしまった。彼はミイラにしてもらうこともなく、墓も造ってもらえず、貧民として埋葬された。」

死後の世界はアニーの心に重くのしかかっていた。次の世のための適切な準備が成されないまま死んでいくということは永遠の楽園に行くための機会を奪ってしまうかも知れない。
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アニー「すごく気にかかっているんだ。」
友人「お前が気に掛けても死者の助けにはならないよ。お前にはお前の人生があるんだよ。」
アニー「でも、その人生は短い。しかし永遠というのはとても長い時間なんだ。」

アニーが死後の世界のことを深く考えていたという証拠は彼の葬儀のために準備された驚嘆すべき芸術作品だ。アニーの巻物Scroll of Aniと呼ばれている。
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スタート助教授「アニーの巻物は最も有名な死者の書のコピーだと言えるだろう。文字や美しく描かれた描写などは他の死者の書と比較にならない程高い芸術性を備えているからだ。」
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考古学者たちは2万5千以上もの死者の書のコピーを発見している。最も古い書は紀元前1千5百年に作られ、最も新しい書は4世紀に書かれている。
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しかし、21世紀の今、有名なアニーの巻物が保管され、見ることができる場所はロンドンの大英博物館だ。
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凡そ紀元前1250年に描かれた書には65の祈りと不可思議な章と150もの色彩豊かなイラストが描かれている。
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この素晴らしい作品はこれまでに発見された中でも最も長い巻物の一つだ。開くと長さは23mもある。しかし大英博物館がこの書を入手した経緯には批判も多い。
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巻物は1887年、博物館の学芸員curatorのアーネスト・アルフレッド・トンプソン・ワリス・バッジ博士Dr. Ernest Alfred Thompson Wallis Budgeによってエジプトから持ち込まれた。彼はエジプト考古学に関する百以上もの本を書いた作家でもある。
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ヒエログリフで書かれたエジプトの重要な記録のいくつかも翻訳して発行している。数千もの卓越した芸術品と認められている骨董品も蒐集している。
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しかしバッジは二流の学者で、貧しい考古学者で、どんな汚い手段をとっても骨董品を収集した盗人だという人々もいる。

スタート助教授「彼の時代なら、彼が骨董品を入手した手法は異常に薄汚い方法であったとは言えないと弁護する人もいる。」
編集者ジェームス「イギリスやフランスが競争で骨董品を奪い合っていた時代でもあったのだ。」

しかしエジプト人のザヒ・ハワス博士は言う「バッジは盗人(ぬすっと)だと私は考えている。もし正直な人間なら、どんな理由があろうとも他人の物は盗まない。」

現代ならば彼は非難の対称になる男かも知れない。しかし、彼の時代、彼は尊敬される翻訳家で英国博物館の優れた学芸員の一人でもあった。1887年秋、芸術品収集の目的で大英博物館は彼をエジプトに派遣した。
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彼の旅は丁度いいタイミングだった。到着するや否や、新しく見つかった芸術品の噂が出回ったのだ。彼は自伝にそれを記している。
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バッジ自伝「カイロに到着して数時間もしないうちに、上エジプトで発見された芸術品が人々の話題になっていた。噂はヨーロッパの都市にも流れていて、どの国の博物館もそれを手に入れようと虎視眈々と狙っていた。」

バッジはまず仲間のエジプト研究家に会うためにカイロのエジプト博物館を訪れた。
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そこで彼は博物館の収集品のみすぼらしさにショックを受けた。発見された芸術品はエジプト博物館に運ばれてくる前に、どこかで誰かに引き渡され、国外に持ち出されていたのだ。
当時、エジプトの遺物発掘や保存は植民地骨董品局が進めていた。局長はフランス人ユージン・ガーブルだった。ガーブルは英国が骨董品を盗んでいると非難していた。バッジはエジプト博物館で、懇意にしていたエジプト人助手ラムジーから、ルクソールで興味深い骨董品が見つかったという情報を聞き出し、自分の目で確かめようと直ぐにルクソールに向かう計画を立てた。ルクソールはナイル川に沿って720km上流の町だ。他の誰よりも早くルクソールに到着しなければならない。

アニーの巻物の発見はエジプト考古学における偉大な物語の一つで、陰謀と非難の対象でもあるワリス・バッジの冒険談とも言えるだろう。
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バッジ自伝「墓盗賊がとても重要な発見をしたという情報を現地人から入手した。彼によればナイル西岸の墓からこれまで見たことも無いような見事なパピルスの巻物が見つかったという。彼は国の役人が盗賊を見つけて逮捕してしまう前にすぐ来るよう私に伝えて来た。」
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スタート助教授「19世紀後期はエジプト考古学にとってはとてもダイナミックな時代だった。近代考古学が現れ始めた時期であると同時に、古くて長い間続いてきた伝統に従い発掘場所で骨董品の売買が行われていた時期でもあった。」
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バッジは自分で墓から骨董品を発見したことはない。仲介人から買い取るのが彼のやり方だった。この闇市black marketはとても繁盛していて英国博物館の重要な収集品の源ともなっていた。しかしそれは同時にエジプトの考古学的な秘宝を破壊することでもあった。

ザヒ・ハワス博士「エジプトの宝物を売り買いする闇市そのものは悪だ。エジプトは侵されてしまったのだ。彼等は国の遺産を持ち出してしまったのだ。」

バッジの助手ラムジーはバッジを闇市の仲介人の所に連れていった。そこでバッジはルクソールで発見された興味をそそられる骨董品を見せられた。
バッジ「“彼は弱者を強者から守った。そして足枷(あしかせ)を付けられた者たちの叫びを聞いた”って書いてあるな。」
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1887年、バッジはヒエログリフを読むことが出来る数少ない西洋人の一人だったのだ。
エジプト人仲介人「本物でしょ?」
バッジ「うん、これは本物だ。第18王朝における太陽の神ラーに関する記述だ。死者の書のコピーじゃあないかと思う。世界でも最も古いエジプトの聖書だと言ってもいい。人がしてはいけない罪のリスト、いわゆる“否定の告白”が書かれている。旧約聖書のモーゼの十戒の基になったものだ。このパピルスしかないのか?」
エジプト人仲介人「いいや、そうじゃあない。発見者は巻物を見つけ出したけれど、それを小さな片に切って収集家に売ろうと考えているんだ。彼はルクソールにいる。私が持っているのは、この一枚だけだ。」
バッジ「とりあえずこれを買わせてもらうよ。」
仲介人「明日、あんたにガイドを会せよう。発見者の所までは2日の旅だ。」
バッジは骨董品局局長のフランス人ユージン・ガーブルもこの骨董品を狙っていることを知っていた。彼よりも早く、手に入れねばならない。
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1887年当時、死者の書は話題をさらっていたが、その本当の価値が判るようになったのは現代になってからだ。今では誰もが、世界で最も古い宗教的な記録だと考えている。
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ザヒ・ハワス博士「聖書、旧約聖書、コーランの中に記されていることが死者の書に記されているんだ。つまり死者の書とこれらの経典の関係は突然あらわれたものではない。死後の世界に関する考えも死者の書で初めて現れたのだ。」

スタート助教授「死者の書はピラミッドに残された、世界で最も古い宗教的な記録を引き継いだものだ。第5王朝のピラミッドで紀元前2千3百年ころのものだ。」
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カローラ教授「その後は高貴なエジプト人たちがピラミッドに書かれていた記述を自分たちの棺桶の内側に書くようになり“棺桶の書”として知られるようになったの。」
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「そして新王朝の時代にはミイラとともに埋葬されるパピルスの巻物に書かれ始めるようになったってわけね。」

紀元前1250年、アニーが生きていた時代、死者の書は生まれて既に1千年を迎えていた。記録によればアニーは寺院の司書だった。今日なら税理士のような仕事をしていたようだ。
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スタート助教授「当時、寺院は宗教的な施設であるとともに経済的な施設でもあった。彼は貢物や寺院の食糧倉庫を管理する仕事に就いていた。」

アニーの司書という地位は教育をうけた人物だけが就けるもので、当時のエジプト社会ではエリートに属していた。彼は死後の世界に大いなる関心を持っていた。永遠の命は死者の書を持っていて初めて保証される。

スタート助教授「死者の書は恐らく“生命局”と呼ばれる部門によって作られていた。恐らく大寺院の中の部門で、そこでは宗教にかんする学問が奨励され、儀式が企画され、葬儀の様式が決定されていた。」
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アニーは寺院の祈祷師に会って死者の書に関していろいろ話を聞いただろう。

デイビッド教授「死者の書を手に入れる方法は2つある。一つは特注する。特注だから大金を払う必要があったはずだ。書は注文者のためだけに書きあげられていた。もう一つの方法は、名前の部分が空白のまま書かれた死者の書を購入することだ。沢山の書が予め準備されていて、値段は安かった。購入したら、空白部に自分の名前を書き入れるんだ。」
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大寺院は祈りを捧げる場所であるとともにビジネスの場所でもあったのだ。
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祈祷師「アニーよ。我々の仕事の内容が判ったか?」
アニー「判りました。でも私に何が必要なのかについてはまだです。」
祈祷師「死者の書の巻物が造られている所を見せてあげよう。ここだ。この書だけがあの世への手引きとなるのだ。」

エジプトの巻物はナイル川に沿って生い茂っている植物パピルスで造られている。まず、パピルスの茎の皮をむき、芯を紐状にしたら叩いて薄く延ばす。
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エジプトの乾燥した気候の中でパピルスは安定した状態に保たれ、何千年ものあいだ劣化することはない。
死者の書の次の段階は各章をパピルスの上に書く作業だ。
カローラ教授「司書の仕事は古代世界では権力を持つ職業だったのよ。司書は知識を管理していたの。彼等は思い付きで記述するのではなく、子供の時から寺院や宮殿に設けられていた司書育成学校で厳格な教育を受け、何年もヒエログリフの勉強を続けたの。」
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「古代エジプトでは言葉そのものが創造的で不可思議な力を持っていたのよ。言葉はヨハネの福音書Gospel of Johnと同じような力をね(?何を仰りたいのか不明です)。死者の書は、言葉が持つ力を使って祝福されるべきあの世を創造することが目的だったのよ。」

死者の書の最後の仕上げは、持ち主自身の姿を描き込むことだった。その絵は不可思議な力を持ち、その人物の運命を決定すると考えられていた。
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祈祷師「聡明な男は望む限りの力を得ることが出来る。」

デイビッド教授「金持ちは、死者の書の作成の過程で、自分の姿を書の中に、絵に盛り込ませていた。そういった書は、とても価値が高いと考えられていた。」
死者の書を特注購入するとなれば、アニーの家族に大きな影響が及んだことだろう。何故ならそれはかなり高価だったはずだからだ。アニーの地位としたら、恐らく年収の半分が必要だった。
古代の記録によればアニーの妻はトゥトゥという名の女だった。二人は死者の書を手に入れるに当たって何度も話し合ったはずだ。新王朝の家族にとって、今の生活を将来の永遠のために当てるべきかどうかという選択は難しいものだっただろう。
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アニー「我々は死者の書を買わねばならないと思う。」
トゥトゥ「年収の半分もするのよ。今から少しずつお金を貯めていかなければいけないわ。死ぬのはずっと先なんだから。」
アニー「しかし、死は永遠に続くんだよ。」
アニーの永遠の命に対する強い願望は3千年後、収集家バッジがアニーの死者の書を手に入れたことで現実のものになった。

古代エジプト文明は死の文化だ。エジプト人の日常生活に関する遺物はほとんど残されていない。しかし我々は、彼らが墓に捧げた壮麗な努力や宝物や巻物やミイラ化された遺体については良く知っている。今、ファラオの信仰は21世紀の近代技術に出会った。
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これまで前例のない調査の中で、エジプト学者は最先端の医療科学を使って3千年前のミイラの調査をしている。
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デジタル技術によってミイラを傷つけることなく仮想解剖することが出来るようになった。
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ミイラを包む布の下では2千年前のお守りamuletが、死後の世界に襲ってくるはずの危険から死者を守っていた。

サリマ准教授「当時の人々が死体を布で巻く時は、体の前から背中まで、あちこちにお守りを飾り付けて死者をあの世で守ってやるの。このお守りと死者の書が強く働き合って、あの世で出会う危険から死者を守るっていう考えは素敵だと思うわ。」
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しかし何故、古代エジプト人は手間をかけてまでして死体を保護しようと考えたのだろう。

サリマ准教授「エジプト人が死体をミイラ化したのはあの世の生活を楽しむためには、肉体的な移動体が必要だと信じていたからよ。体を保存しておいて、後で魂をその体に戻してから、飲んだり食べたりしながら、永遠の命を今と同じように楽しく享受しようと考えたの。」

しかし死体をミイラ化するのは簡単ではない。
サリマ准教授「まず肺や肝臓や胃や腸などの内臓を取り出すの。」
内臓はコノーピックと呼ばれる儀式用容器に保管され、ミイラ埋葬時に遺体のそばに置かれた。
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内臓を取り出した後は、先が曲がった長いフックを鼻の孔に差込み、頭蓋骨の中から脳を取り出した。古代エジプト人は脳が重要な器官だとは考えていなかったので取り出した脳は捨てられていた。
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サリマ准教授「脳や内臓が取り除かれたら、そこに接着剤のようなものを溶かして流し込んで塗りたくったの。このおかげで何千年もの間バクテリアで遺体が蝕まれないことになったのよ。」

しかし心臓だけは遺体の中に残された。知性と感覚の中心的なもので、あの世でも必要だと考えられていたのだ。

サリマ准教授「死体は洗浄され、塩と焼成されたソーダの混合物の一種の重炭酸ソーダで40日ほど乾燥されたら体中に油を塗られ布で巻かれて葬儀に臨んだ後で埋葬されたの。」

ミイラ化は死者の魂が辿る長い旅路の始まりでしかなかった。エジプト死者の書だけが墓の向う側での唯一の手引書だった。
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紀元前1250年頃のテーベ:
アニーという名のエジプト人の司書は、あの世について真剣に考え始めていた。彼は死者の書が心に平穏を与えてくれると信じていた。

サリマ准教授「あなたが死んで、あの世に旅立つ時、その先にはとても危険が待っていたの。再び生まれて永遠に生きるためには、一連の試練をパスしなければならなかったの。死者の書は死者を守るために、その試練に対する答えを準備していたのよ。」
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ザヒ・ハワス博士「試練というのは永遠の命へ至るための質問だ。死者の書に書かれていることを知らなければ、死者はあの世に行き着くことが出来ない。古代のエジプト人にとって最も重要だったのは、あの世のことだったんだ。」

死者の書を手に入れるには大金が必要だった。従ってその購入を決める過程は難しくて複雑だった。186の選択すべき章があり、書を必要とする人の要望と予算に合わせ、いくつかの章を組み合わせて巻物が造られた。祈祷師は、注文主の意見を訊きながら、どの章が必要か、どの章を選ぶと好いかなど、相談に乗っていた。
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祈祷師「全ての死者は、あの世で唇が湾曲したカブト虫と出会う。カブト虫は餌の糞かのように死者を食べてしまう。また、全ての死者は神アミットと出会う。この神も死者の魂を食べようと虎視眈々と狙っている。巻物だけが、このような恐ろしい試練から死者を救うことができる。」

カローラ教授「私は時々、死者の書はお金をもうけようという意図で始まった少し特殊な副業ではないかと疑っているの。だからお金持ちの人に死者の書を持つべきだって勧めて、高い値段を押し付けていたんじゃあないかって。」

特定の個人が所有する死者の書を作るということはその人の地位の象徴としての意味もあっただろう。

スタート助教授「死者の書は一般人には極めて高い買い物だった。従ってこれまで見つかった多くの書もエリートたちに限られたものだ。」

これはエジプトの文化が始まったばかりの時代とは随分、異なっていた。当初はミイラ化と神々が暮らすあの世での生活はファラオ(王)だけに約束されたものだった。しかしアニーの時代になると、中間層や時には貧しい人でもあの世での生活を望み、そのために喜んでお金を出すようになっていたのだ。
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(mh:アニーのパピルス(巻物)に描かれたアニーです。)

ウィレック助教授「それはあの世の民主化を示しているって考えてもいいと思うの。なぜなら最初の書は王のためだけのものだったけれど、新王朝時代になってから高貴な人々だけでなく多くの人が手に出来るようになったんだから。」
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ザヒ・ハワス博士「最初は王のためだけだった死者の書が、新王朝時代には、死者の書は全ての人のために書かれるようになった。個人の墓からも見つかっているし高貴な人々の墓からも見つかっている。職工の墓からも。」

あの世に関する信仰は中流階級にも広がり始めただけではない。ある学者は死者の書はユダヤ教やキリスト教の経典にも影響を与えたと考えている。
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エジプト学者タマーラ「古代のキリスト教は古代エジプトの天国の概念に依る部分が大きい。その理由のひとつは初期のキリスト教関係者はエジプト人の祖先を持っているからだろう。従ってキリスト教におけるあの世に関する記述のオリジナルはエジプトに見つかる。あの世で、愛していた人々と一緒に過ごすという発想もキリスト教と古代エジプトの考えに共通している。」
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(mh:アニーのパピルスでアニーと妻トゥトウが描かれています。)

エジプト死者の書がキリスト教のイメージを創ったと思われる例もある。
カローラ教授「イエスを信仰する姿はエジプトの神オシリス(Osirisオサイリス)を信仰する姿と似ていると考えられているの。象徴的なものとしては、キリストが聖母メリーの膝(ひざ)に抱かれる姿は、オシリスの妻イシス (Isisアイシス)がその子ホルスを抱いている姿を象徴的に現したものではないかって。」
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死者の書とキリスト教聖書の関係に最初に気付いた人の一人がワリス・バッジだった。
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バッジ自伝「エジプト人は一人の神オシリス(Osirisオサイリス)を信じていたという事実が残っている。彼はこの世で悲惨な死を与えられ再生している。キリスト教のある宗派における見解と宗教的な考えがエジプトのものを直接的に受け継いでいることに疑いは無い。」
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サリマ准教授「人々の民族的、宗教的な信仰が、どの民族であれ、いつの世紀であれ、共通しているっていうことに気付くのは楽しいことよ。」

1887年、ワリス・バッジがエジプトに到着した時、エジプトは欧州連合によって統治されていた。5年前の1882年に国粋主義者による反乱の後、大英帝国とフランスが分担しながら植民地化してしまったのだ。当時の重要課題は運河だった。
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2つの国は数十年に渡ってエジプトの政治と経済を管轄し続けた。しかしその共同管轄は夫々にとって決して穏やかなものではなかった、特にバッジのような人物にとっては。バッジは大発見がルクソールであったという噂を聞き付け、フランス人のユージン・ガーブルと競うことになった。
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ガーブルはエジプトの骨董品局の責任者であり、バッジがエジプトの骨董品を海外に持ち出すことを取り締まる立場にあった。しかし、イギリス同様にフランスもエジプトの骨董品をパリのルーブル博物館に持ち出していたのだ。

バッジはもしエジプトの骨董品を持っていることが見つかればフランス当局によって逮捕されるかもしれないと感じていたが、そのリスクは喜んで引き受けるつもりだった。兎に角、早くルクソールに行って貴重な骨董品を手に入れねばならない。

紀元前1250年、アニーの家:
妻トゥトゥ「アニー、どうしたの、突然起きたりして。」
アニー「私は死にたくない。永遠に生きていたい。永遠の命を得たい。」
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もし古代のエジプト人が永遠の命を保証したいと望むのなら、答えはたった一つだった。死者の書だ。

アニー「巻物を手に入れねばならない!」
祈祷師「今それを買いたいのか?」
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死者の書は人それぞれで内容が異なっていた。

カローラ教授「我々が知る限り死者の書として使われるべき章は189章があるの。これら全てを収めた死者の書というのは今まで見つかっていないのよ。従って、私たちは注文主の神学的関心や好みによって編纂されていると考えているの。」

スタート助教授「死者の書の章には死者を悪魔から守る内容や二回目の死(mh;あの世でまた死ぬこと)から死者を守る内容が含まれている。」

エジプト人はあの世で厳しい労働に直面することになっていた。自分だけではなく神々のための土地すらも鋤(すき)で耕さねばならないのだ。
祈祷師「アニー、お前はそんな厳しい仕事をしたいと思わないだろう?」
アニー「したくはありません。」
祈祷師「ならお前にはシャブティshabtiが必要だ。あの世でお前のために働いてくれる不思議な労働者だ。」
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カローラ教授「第6章では死者が、労働に駆り出される時、自分のクローンを連れていき、彼等に仕事をさせることが認められていたの。だから死者の書を望む人は誰もが書の中に第6章を書き込む程重要な章だったのよ。クローン、つまりシャブティはメイドのようなもので、もし彼らが居なければ身の回りの世話も全て自分でやらねばならなかったってわけ。」
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サリマ準教授「エジプト人は心臓が最も重要な器官だと信じていたの。そこには魂があって命の源があって知性や発想などの全てが生まれる所だと考えていたの。ミイラ化される時でも心臓は体の中に残されていたのは、あの世に到るためにも心臓が必要だと信じていたからよ。」
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そんなに重要な器官なら特別な保護が必要だったはずだ。その保護は心臓スカラベheart scarabという形で現れている。
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デイビッド教授「心臓スカラベはスカラベ・カブト虫を象徴している。エジプトでの日の出はカブト虫、特に地平線から舞い上がる、羽を広げたカブト虫で象徴されていた。つまり心臓スカラベは日の出の象徴であり、死者の再生を象徴するものでもあったのだ。」
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サリマ准教授「スカラベの裏側を見ると死者の書に書かれている文章が刻まれていることが多いの。私は嘘つきではない、心は正しい、と言った内容がね。死者があの世で質問された時に、こっそりのぞき込む答えが書かれているのよ。経典のようなものね。心臓には現世の行いの善悪が現れていたっていう考えによるものだと思うわ。」
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祈祷師「巻物さえあれば、お前も永遠の命を生きることが出来る。」

死者の書と同じくらい重要だったのは壮麗な挿絵だ。
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スタート助教授「死者の書の中の挿絵は記述の内容を死者に
明確に判り易く示すために描かれた。つまり死後の世界で死者を守るためには重要なものだったのだ。」

アニーの巻物を仕上げるためには数か月、もしかすると1年ほどの期間が必要だっただろう。古代エジプト人にとっては、永遠の命を意味するものだったからそれくらい時間と労力を注ぎ込む価値があったのだ。我々は巻物が完成してアニーがどれだけ救われた思いをしたのか想像できるだけだ。
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(mh:アニーと妻トゥトウです。)

古代エジプトからは多くの巻物が見つかっている。しかし、間違いもほとんどなく、芸術的な美さえ備えた巻物といえばアニーの巻物しかない。

ジェイムズ・ヲッサーマンはグラフィック芸術家であり本の編集者でもある。
編集者ジェイムズ「私がこの巻物を見た時、息を飲んだ。信じられなかった。色彩豊かで映像のもつ不可思議さはとてもパワフルで、学ぶべきものが沢山含まれていた。」
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ジェイムズ・ヲッサーマンはアニーの巻物を採り上げた本を発行した。それは全長23mの巻物の全てを含んでいるだけではなく、記述の英訳も併記されていた。
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今ならアニーの死者の書を読むことが出来る、昔アニーが読んだであろうように。
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編集者ジェイムズ「もしこの本を読んで、そこにある挿絵も観たなら、この世を離れる嘆きと未練の感情を見るだろうし、あの世でモラルを調べられる試練に耐える心情を理解できるようになるだろう。このページではアニーと彼の妻トゥトゥが、最もドラマチックな事態に近づいていく様子が描かれている。」
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「アニーの心臓は秤(はかり)に掛けられていて、女神マーの真実の羽根と釣り合っている。もし彼の心臓の方が重ければ、彼は直ちに、この怪物アミートに食べられてしまうのだ。」
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古代エジプト人にとって死は再生の第一歩だった。アニーの妻が死んだ時、巻物は彼女の墓には埋められなかったが、彼女をあの世に導いてくれたはずだ。アニーの巻物の中で既に、二人はあの世の楽園である葦(あし)の草原で一緒に暮らすことが約束されていたのだから。

アニーの娘「悲しまないで、お父さん。私たちはお母さんのために全てをしてあげたんだから。お母さんは何も後悔していなかったと思うわ。お母さんは直ぐに葦の平原に到達して永遠の楽園での生活を楽しむことができるはずよ。」

1887年、バッジはルクソールに向かう途中、エジプト骨董品局のユージン・ガーブルの指示で逮捕されたが、バッジの助手ラムジーの機転によってまんまと逃げ失せることが出来た。バッジはラムジーに50ポンドの褒美を与えたらしい。バッジは既に“いかがわしい人物”との評判を得ていた。彼の骨董品収集手法は今日でさえ論争の対称になっている。

スタート助教授「バッジにとって問題だったのは、彼が考古学者ではなかった点だ。彼は手っ取り早く仕事を成し遂げるタイプで、規則を曲解し、お金を使って秘密の取引をするなど、倫理性に欠けている面を持っていた。」

カローラ教授「バッジに対して私は大英博物館の小さな控室に座っている年とった可愛い学者というよりもインディアナ・ジョーンズのような印象を持っているわ。」

しかし彼女によればバッジのようなやり方は当時なら一般的だった。

編集者ジェィムズ「失われ、破壊され、盗まれてしまった多くの骨董品のことを考えるなら、悪党かも知れないが、どこへでもでかけ、骨董品を買い漁ったバッジのような人物の方を好ましいと思うんじゃあないだろうか。何故って、彼は骨董品を保護するために買い集めたんだから。」

ザヒ・ハワス博士「バッジは彼が持つ影響力を使い、学者としての立場を使い、エジプトから沢山の骨董品を盗んで大英博物館に持ち出した。汚いやり方だ。」
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バッジ自伝「私がルクソールに着いた時には、仲介人たちは既にテーベの西の墓から沢山の価値のあるコレクションを集め終えていた。現地の人達は政府からの骨董品保護に関する要請を馬鹿にしていた。骨董品は既に市場に沢山出回っていた。しかし、お金はそうではなかった。」
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3千年前、ルクソールがテーベとして知られていた時、アニーの巻物は年収の半分の価格だっただろう。あの世で役立つのか、確かめられる時が来ていた。
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我々はアニーがどのように死んでいったのかを知ってはいない。しかし、彼がどのように埋葬されたのかについてはかなり明確な考えがある。国の司書だったアニーはエリートに属する男だった。彼の墓は綺麗に仕上げられ、その費用も高かったはずだ。

カローラ教授「ミイラ化には費用に応じて色々なやり方があったの。貧しい人は極めて簡素なミイラ化が行われ、別の人の墓やピラミッドのそばの砂漠に埋められて、隣人のおこぼれを得ようとしたのよ。多くの費用で葬儀を行う場合は、最大272日もかけてミイラ化して、棺桶coffinと石棺sarcophagusも準備したの。」

ミイラ化の後で、遺体は牛に牽かれる、船型の木のソリに載せられ、ナイル西岸の大きな集団墓地にある自分の墓まで連れていかれて埋葬された。
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エジプトの葬儀の絵によれば、嘆き悲しむ親族だけではなく、楽団や踊り子や祈祷師や職業的な泣き女が登場している。
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古代エジプトのファラオは手間がかかる墓に埋葬されている。最も古い墓は紀元前2千6百年前に造られたピラミッドで、新しくは王家の谷だった。王家の谷では5世紀の間、ファラオやその家族たちが埋葬されることになった。エリートや中間層の人間も彼等自身の墓や集団墓地を利用した。そしてこれらの墓には副葬品として宝石なども埋葬されたので、何世紀もの間、墓荒らしのターゲットになっていた。
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1887年、バッジがルクソールに到着した時、墓荒らしは昔から代々続く職業だった。
バッジ自伝「彼等はエジプトの宝でもある骨董品をカイロ博物館に収めるためではなく、生活のために売ってお金にする目的で墓荒らしをしていた。エジプト政府以外の者なら誰とでも取引するつもりだった。」

バッジの骨董品収集についての噂は墓荒らしたちも知っていた。彼等はルクソールの南のカーナKernaにバッジを案内したようだ。王家の谷に近い所だ。
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集団墓地があり、かなり計画的に盗掘が進んでいた。そこでバッジは見事な巻物に出くわした。ヒエログリフを解読できるバッジには直ぐにわかった。「死者の書だ!王の司書でアニーという男のために作られている!」
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バッジは直ぐに200ポンドを払って買い取った。バッジのようなエジプト学者にとって、巻物は魅力的な工芸品だった。

しかし古代エジプト人のアニーにとってはあの世への鍵となる書だ。

スタート助教授「エジプト人はあの世は危険に満ちた所だと信じていた。これは恐らく死の恐怖を象徴化したためだろう。」

古代エジプト人には死は旅の始まりで地獄への入口でしかなかった。

スタート助教授「死はエジプト人にとって打ち勝たねばならない危機だった。しかし彼等は楽天的で、必ず逃れられるものだと考えていた。」

死者の書では恐ろしい世界の様子が挿絵で示されていた。そこでは死者は恐ろしい生物に脅(おびや)かされる。
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スタート助教授「死者の書では挿絵がヒエログリフと共に使われていて、ビデオ・ゲームのような印象すら持っていた。敵を次々に打倒し、障害物を乗り越えて、新しい場面に進んでいく。良く知られている蛇の頭をもった悪魔に出会った時は、書に書かれているヒエログリフがもし綺麗なまま残っていれば命を得て悪魔を退治してくれた。」
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アニーを守る味方も死者の書に書かれている。

スタート助教授「ヌビスという神が現れ、死者を導いてくれると死者の書には書かれている。」
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デイビッド教授「ヌビスはあの世ではとても重要な神で、死者のミイラ化や埋葬儀式にも関与している。彼はいつも犬canineの頭をして現れる。ジャッカルや野生の犬を象徴していて、谷の隅の集団墓地の近くで暮らしている。死者にとっては守護神であり、あの世への案内人でもある。」

死者の書で最も重要な章の一つは“口を開ける”という不思議な儀式だ。
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アニー「死の神よ。止めて下さい!」
神ヌビス「お前の口は今、空いた。お前はもう喋ることが出来る。」

カローラ教授「私がこの章で好きなところは、口を象徴的に開けるというだけではなく、目も耳も開けるというところなの。とても哲学的な表現だと思うわ。」
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スタート助教授「“口を開ける”というのは精神としての死者の体を目覚めさせる意味がある。人は死んでしまえば、全ての感覚は一旦、閉じられてしまう。しかし、この儀式で魂の入れ物でしかなった死体が、見たり、捧げものを味見したり、香の香りを嗅いだり、祈りの言葉を聞いたりできるようになるのだ。」

神ヌビス「巻物はお前の旅の鍵だ。」
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死者には地下世界の中で目指すべき目的地がある。葦の平原だ。そこで死者は永遠に生きることが出来る。しかし、そこに行きつくには多くの危険が待ち構えている。死者が楽園に着くことを邪魔するのだ。
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ルクソールでは、バッジは骨董局の逮捕の手からかろうじて逃げのびて収集を続けていた。しかし彼のやり方は強力な敵を作り出していたのだ。バッジは、アニーの巻物をイギリスに持ち出す帰国の旅の準備をしていた。ルクソールを発とうとしていたその時、彼の旅は望んでいなかった客によって中断されてしまう。フランス人のガーブル骨董品局長だ。
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バッジは逮捕され、アニーの巻物を没収された上に牢屋に入れられてしまった。巻物はもう二度と彼の手に戻ることは無いかも知れない。

紀元前1230年のテーベ:
司書のアニーに永遠に葦の平原で暮らす権利があるかどうかを神が裁いていた。死者の書に書かれた章が攻撃を加えてくる悪魔を撃退してアニーを守っていた。

ある一つの章はアシャルーと呼ばれる死者を食べてしまう悪魔の神から身を守るために準備されていた。

アニー「砂漠を闊歩(かっぽ)する者よ。下がれ!お前の真の姿に戻れ!」
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地下世界は不思議な所だ。混沌と出会う場所だと考えられていた。死者の書には悪魔を退治する魔術を記載した章が沢山準備されていた。

3千年後の1887年、アニーの巻物は当局によって押収されバッジは牢屋に入れられてしまった。しかし、彼は突然、解放される。エジプト人の助手ラムジーが看守に賄賂を渡して牢屋を開けさせたのだ。自由の身になったバッジは直ぐにアニーの巻物を取り戻すべく動き出した。彼等に渡していては安全に保管される保証はない。ラムジーによれば没収された巻物は価値があると判断され、切り売りするために20枚のシートに切断され、没収された他の骨董品と共にルクソール・ホテルの建物と壁一つで隔てられている倉庫に保管されているという。
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バッジは自伝に、巻物を取り返す計画を書き残していた。
バッジ自伝「ホテルの壁ひとつ向うにそれが保管されている。私はホテルのマネージャーに自分の希望を伝えた。彼だけが望みの綱だった。“このままではエジプトの宝はフランスに持ち出されてしまう。何とかしてそれを阻止しなければならない。協力してほしい”。」

マネージャー「で、どんな協力をしろっていうのですか?」
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バッジはホテルの壁に倉庫に繋がる孔を明けるため、工夫を雇って作業の時期を計っていた。夜、一気に作業するしかない!彼の算段は成功するのか、それともアニーの巻物は永遠に彼の元には戻ってこないのか。

紀元前1230年のテーベ:
古代エジプトでは死によって命が完全に終わるわけではなかった。死は長い旅の始まりでしかない。アニーは巻物の指示に従ってあの世での旅を続け、ついに最後の試練の場所に到達していた。“審判の広間”だ。
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ここで彼は42のドアの向うにいる42の神々に出会う。各々の神の前で彼は異なる罪のいずれをも犯さなかったと申し立てなければならない。あの世における大きな試練のひとつだった。

オグデン教授「もし、質問への答え方を知らなければ扉を抜けて次の世界に行くことは出来ない。」

この42の試練は“否定の告白negative confession”と呼ばれていた。

スタート助教授「つまり、私はこんな罪、あんな罪を犯さなかったと証言するのだ。殺さなかった、盗まなかった、という具合だ。」
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この“否定の告白”の扉を全て無事に通るための手段は死者の書しかなかった。興味深いのは“モーゼの十戒”の内容が“否定の告白”の中に記されていることだ!
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死者の書から何百年も後に書かれることになった十戒は“否定の告白”の中から拾い集められたものだったのだろうか?

エジプト学者タマーラ「神はたった一人だという記述は“否定の告白“には無いの。一人の神だけが崇拝されねばならないと言う記述もないわ。しかし、十戒にある全ての“こうしてはならない”という命令dommandmentは死者の書に現れているのよ。」

カローラ教授「エジプトはモーゼの故郷なの。エジプトの死者の書や文化が聖書に色々な面で影響を与えたと考えることは不自然ではないわ。」

“否定の告白”がモーゼの十戒の基になったかどうかは別にしても、エジプト人は現世を正しく生きねばならないと信じていた。
サリマ准教授「死者の世界にいけば“お前は何をしたのか、何をしなかったのか”と問い質す神が沢山いるの。沢山の試験を受けることになるのよ。」
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ザヒ・ハワス博士「あの世についたら42の扉の全てを通り抜けねばならないのだ。巨大な神に護られた扉を抜けていくのは簡単な事ではない。」

それぞれの神は恐ろしい名前を持っていた。魂を飲み込む神、骨を粉々に砕く神・・・

アニー「私はその罪は犯しておりません。」
神「お前はこの扉を通ってもよい!」

こうして次々に扉を通り抜け、最後の扉を抜けると、アニーは神ホルスに出会う。オシリスとイシスの間に生まれた息子だ。彼がアニーを“審判の間”に案内してくれる。
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死者の書における決定的な瞬間は“心臓の重さ測定weighing of heart”だ。
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サリマ准教授「死者の心臓は死者の知識と感情の象徴なの。良いことも悪いことも心臓が重要な役割をはたすのよ。」

死者は心臓カブト虫のお守りをホロスに渡す。女神マーアートの一本の羽根の重さとお守りの重さを秤にかけて調べるのだ。

サリマ准教授「女神マーアートは真実、正義を測りの釣り合いで判断する女神なの。」
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カローラ教授「心臓が重すぎてはいけないし、逆に軽すぎても駄目で、釣り合いが完全に取れなければいけないの。もし死者の書に従わず、秤の釣り合いがとれなければ、死者はアミートの前に投げ出されて食べられてしまうのよ。アミートは鰐(わに)とライオンが組み合わされて生まれた生き物で、有罪とされた死者を瞬時に食べ尽くす恐ろしい動物なの。」
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石でつくられた心臓カブト虫が最後の試験にかけられる。永遠かそれとも消滅か。
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アニーが“審判の間”に到着した時、彼は自分の旅の最後の場面に来たことに気づいていた。最後の試験だけが残されていた。彼が望んでいる永遠を得ることが出来るかどうかが決まるのだ。
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バッジはエジプト当局から巻物を取り戻そうと画策していた。ホテルの部屋の泥の煉瓦の壁を打ち砕いて保管庫に続く穴を明けるのだ。

バッジ自伝「夜の静寂のなかで壁に穴を明ける作業の音は遠くまで響く恐れがある。保管庫の外で警備している男達は腹を空かせているに違いないから酒と食事を与えて油断させておこう。」
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ザヒ・ハワス博士「バッジはとても不思議な性格の男だった。良い面もあり、悪い面もあった。」

また捕えられる危険があった。しかし、バッジはそのリスクを冒すことをいとわなかった、得られる骨董品の価値はそれほどに大きかったのだ。
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バッジ自伝「彼らがうたた寝を始めると、私の仲間たちが壁に孔を空け、保管庫の中の骨董品を次々にホテルの部屋に移し替えていった。こうして我々は多くの骨董品と共にアニーのパピルス巻物を救うことができたのだ。」

3千年前:
死者の書はアニーにとっては測り知れない程に重要なものだった。“心臓の重さ測定”の試験に合格するための唯一の指導書だった。永遠の楽園へのチャンスは一度しかない。

アニー「私の心臓よ。この法廷で私を裏切ってはならぬ。私に逆らってはならぬ。神の名において、私について嘘を語ってはならぬ。」
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死者の書の手引きでアニーは“審判の間”における最後の裁きを乗り切った。彼の旅は終わり、試練は全て完了した。今から楽園である葦の平原に入っていくのだ。
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1887年、バッジも彼の旅を終えようとしていた。バッジと、彼が持ち出した宝物はナイルを下る船の上に在った。行先はカイロ、そして勿論、その先のロンドンだ。1887年末、彼は大英博物館に戻っていた、アニーの巻物の全てと共に。しかし、そこで彼が行った行為は考古学的な破壊としか言いようがない、と非難している人がいる。

編集者ジェィムズ「バッジは20のシートに分割されていた巻物を、更に細かく、章ごとに切り離してしまったのだ。
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切り取った各章を木製の板に貼り、翻訳に便利な形にしてしまった。確かに、解読には便利だったかもしれない。しかし、パピルスのもつ整合性integrityを永遠に破壊してしまったのだ。」

その後、彼は大英博物館のエジプト骨董品の管理者として余生を過ごした。彼が書いた100冊もの本のほとんどは今でも印刷され出版されていて、議論を巻き起こしている。

サリマ准教授「バッジはエジプト考古学者としては複雑な評判を得ているの。彼が産み出した物は多いけれど、彼の学究成果はそれほど深淵なものではないわ。アニーの巻物を持ち出したのも、間違いなく自分の欲望に従っただけだと思うわ。」
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ザヒ・ハワス博士「彼が多くの本を書いたことは評価してもよいかもしれない。重要なものもある。しかし、彼が盗人だったという事実は消すことが出来ない。」

バッジが学者だったのか、冒険家だったのか、それとも盗人だったのか、は別にしてもアニーの巻物はエジプト学に大きな話題を持ち込んだ。彼がエジプト死者の書を世界に紹介したと言っても過言ではないだろう。他の誰も、アニーの死者の書ほどに見事で完成されたものを、これまで見つけ出してはいないのだ。

バッジ自伝「博物館を訪れた何百万もの人はアニーの巻物を見て感動している。アニーが何者かについては詳しくは知らないが、彼が私を祝福してくれることを望んでいる。」
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カローラ教授「私は、生と死は人間の長年に渡る疑問だと思っているわ。死者の書は長い間、この疑問に関わってきたの。でも、エジプト人が死者の書を描いたのはあの世のためではなく、今の命を崇拝していて、それが続いてほしいと思っていたからじゃあないかと思うわ。今の世を充実して生きるための書なのよ。」
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最終的には、エジプト死者の書は現在を生きるための手引きだったのだ。地上でどのように生きていけばよいのか、あの世を獲得するため、モラルと倫理に従って今を生きるように教えている。

しかし古代エジプトの不思議は残されたままだ。それはエジプトの死者の書の中に今も残されている。生と死の、そしてその後の永遠の不思議。信仰、希望、想像的作業、そして心、だけが理解できるかもしれない不思議だ。
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Documentary ancient Egyptian - The Egyptian Book Of The Dead
https://www.youtube.com/watch?v=LCO53xH5adg&nohtml5=False

以上で2週間に渡るチベットとエジプトの死者の書シリーズは終わりですが、人は死ぬとどうなるのか、どこに行くのか、について明確な答えを得られましたか?まだモヤモヤしてるっていうんですか?

我が尊敬するお釈迦様はどうだったかっていうと、既にご紹介済みですが、若かりし頃は“何故、人は、自分は死ななければならないのか”を理解できず悩んでいたんですね。でも菩提樹の下で瞑想して悟ったんです。死について考える必要はなく、考えるべきではないと。そんなことより、今を大切に生きることを考えろ、って仰ったんですね。卓見だと思います。キリストやアッラーなんかよりずっと頼り甲斐がある人だと思いますねmhは。

ということで、今後も、楽しい人生を送ることだけを考えて過ごしたいと思います。みなさんも是非、工夫して楽しい生活を送って下さい。そうそう、出来たら、自分だけではなく、家族や友達や同僚なんかも楽しくさせてあげて下さい。人生の至福を体験できること受け合いです。このブログを読んで、もし面白かったって感じて頂けたなら、mhとしては本望です。ここまで読むのに疲れた!と思われた方はご愁傷さまでした。懲りずに、今後もよろしくお願い致します。
(完)
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