Mysterious Questions In The World

世界のミステリーをご紹介します。

サハラの骸骨の不思議


今回はニジェール共和国Republic of Nigerのサハラ砂漠に眠っていた骸骨(がいこつ)を巡るお話しです。
a4601.png
テレーネTerene国立保護区内の、ゴベロGoberoと呼ばれる砂漠の中の地点。西には黒い岩肌の山地が広がっています。
a4602.png
岩山には、ほとんど緑がありません。
a4603.png
しかし、Google Earthをよく見ると、岩山の裾や砂漠の中の所々に緑や井戸が見つかります。化石水でしょうか、それとも岩山に降る雨が地下水系で流れ込んでくるのでしょうか。

“ゴベロGobero”はこの岩山の東側の砂漠一帯に現地人が付けた名です。ご紹介するYoutubeはこのゴベロで見つかった骸骨のお話しですが、ゴベロ南東100Km位いの砂漠に妙な写真が見つかりました。タイトルは“UTA772Memorial”。
a4604.png
調べると、1989年、パリに向けてチャドのンジャメナ空港を発ったUTA航空772便が離陸からおよそ1時間後、貨物室内で発生した爆発で墜落した場所を示しているようです。乗員14名、乗客156名全員が亡くなりました。次の写真で、砂漠に立つのは、残されていた尾翼でしょう。黒いのは墓碑銘です。
a4605.png
写真に写る5人は犠牲者を偲ぶために訪れたのでしょう。砂漠の真ん中にポツンとある墓碑を訪れる観光客がいるとは思えませんからね。

今回の物語のプレゼンテイターを簡単にご紹介しておきます。
ポール・カリスタス・サリーノPaul Callistus Sereno :1757年生まれ、古生物学者paleontology、シカゴ大学教授。モンゴル、アルゼンチン、モロッコ、ニジェールなどで恐竜の新種をいくつか発見。
National Geographicの "explorer-in-residence米国在住探検者?" で、今回のフィルムは撮影開始2011年で2013年に公開されたものです。
・・・・・・
2000年。荒廃したサハラ砂漠の奥地で、化石を探していた一人の恐竜ハンターは予想していなかったものに出くわした。
a4606.png
そこに数千の骨が砂の上に散らばっていたのだ、恐竜ではなく、人類の骨だ!
a4607.png
ポール「みんな唖然とした。」
それはサハラで見つかった先史時代の最も広い埋葬地の一つだった。
チームメンバー「ポールは、それが大発見だと直ぐ気付いたようだった。」

それは、永遠に失われかけていた2つの文化を物語る発見だった。
a4608.png
しかし、人々はこんなところで何をしていたのだろう?一番近い水辺からでも数百Km離れている!どんな暮らしをしていたのだろう?そして何故、死滅してしまったのだろう?
a4609.png
恐竜ハンターは初めて人類の骨に出くわすことになった。
ポール「私はこれらの骨で、この場所で、仲間と共に、何をしたらよいのか理解しようとしていた。」
a4610.png
消え去ってしまっていた世界は、この発見で息を吹き返し始めた。
写真家マイク・ヘットウァー「我々は墓の上と墓の下で花をみつけた。死んだ彼らを愛していた人がいたんだ!」
a4611.png
それからの長年に渡る発掘作業は“時間という砂”との戦いだった。サハラの頭蓋骨を救済するのだ!

National Geographic Specials
Skeletons of The Sahara サハラの頭蓋骨s
a4612.png
サハラ砂漠・・・そこは地球上で最も隔絶された場所の一つだ。
a4613.png
しかし、誰もが英気を削がれてしまうわけではない。
ポール・セリーノ「やあ、ゲイブ、ローレン、ディデール。シール貼りだぞ。」
a4614.png
古生物学者Paleontologistのポール・セリーノと彼のチームは、これから5週間の遠征に出発するところだ。
セリーノ「OK。そろそろ出発するぞ。」
a4615.png
運転手「トレビアンTres Bien」
セリーノ「これは遠征が上手くいくようにというオマジナイの一種だ。このシールを貼ったら、遠征が公式に開始されたってことさ。じゃあ出発!」

今回(2011年)のサハラ探検はセリーノにとって8回目だ。
a4616.png
探検チームの目的はエジプトのファラオよりも2倍も古い時代の失われた文明の謎を解くことだ。ニジェールの真ん中にある町アガデズAgadezから2日をかけ、世界で最も広大な砂漠の中を5百Km移動するのだ。
a4617.png
セリーノ「アガデズを発つと、直ぐに広大な砂漠が始まる。何千Km走っても誰にも会わないだろうし、数百Kmいくと、予想していなかった人々に出会うかも知れない。」
a4618.png
彼らはゴベロGoberoと呼ばれる先史時代の場所を目指している。10年以上前に始めた仕事を続けるためだ。10年前、彼は偶然、1万年前の仮想タイムカプセルに出くわしたのだ。誰もが存在に気付いていなかった人類からのメッセージが残されているところだ。

ポール・セリーノは世界的に有名な恐竜ハンターだ。
a4619.png
世界の何処にでも出かけていって、もう一つの丘、もう一つの砂漠と、精力的に調査することで知られている。彼の研究分野では、絶滅種の一つを見つければ、その後の名声は保証される。
セリーノ「これはすごいよ、デイヴ。でっかい爪だ!」
a4620.png
セリーノはこの20年間、サハラを縦横に探検し、数ダースの未知の恐竜や古代の鰐(わに)を発見している。
a4621.png
しかしゴベロでの発見は、彼にとっても素晴らしい、しかし二度とないだろう発見の一つだ。2000年のある日、設営していたキャンプから遠く離れたこの場所で、サリーノのチームは恐竜の骨を見つけようと立ち止まった。
a4622.png
この時、ナショナル・ジオグラフィックの写真家マイク・ヘットウァーMike Hettwerも探検に同行していた。彼は、ゴベロが発見された日のことを回想する。
a4623.png
ヘットウァー「当初、我々はランドローバーlandroverで、砂漠を駆けてここに到着すると、みんな散らばってサハラの探検を始めた。」
a4624.png
「誰もが、かっこいい発見をしたいと思ってた。私はというと、でかい恐竜の骨は見つけていなかった。でも何かを探そうと地面を調べていたら骨の欠片が見つかったんだ。で、写真を撮っていた。」
しかしマイク・ヘットウァーが追跡していた骨は恐竜の骨ではなかった。人間の骨だったのだ!
a4625.png
ヘットウァー「で、私は砂の丘の方に歩いていった。そしたら今度は足と腰が繋がった骨を見つけた。そして左右の手の骨もね。で、頭蓋骨も見えた。風で運ばれる砂で切断されたように削られた頭蓋骨だよ。わかるかなぁ。」
a4626.png
「まるで大きな茶碗みたいだった。しかし、間違いなく、それは砂と風で半分に切り取られた頭蓋骨だったんだ。そしてその半分になった頭蓋骨は椎骨に繋がっていた。で、遺骨の全体が見え始めたんだ。で、また歩き始めると、別の、綺麗に残された遺骨が見えた。そこで、私は骨を掘り出して車の所まで戻り、ランドローバーの上に広げて載せて、みんなに見せたんだ。ポール・セレーノは、直ぐに大発見だって気付いたよ。」
a4627.png
それは、想像以上の謎の始まりだった。数え切れない程の遺骨が砂漠に横たわっていた!一番近い水辺から数百Kmも離れているのに。彼らは一体、ここで何をしていたと言うのだろう?
a4628.png
セリーノ「みんな唖然としたね。人間の頭蓋骨が横たわって砂漠を眺めているんだ。一体、いつ頃の人たちなんだろう?彼らが見ていたのはどんな世界だったのだろう?何故、ここにいるのだろう?私は、この発見に対して、この場所で、これらの人々と、どう対応したらいいのだろうかって考え始めた。」
a4629.png
頭蓋骨の外観から、彼らは先史時代の人々だと思われた。近くで見つかる工具も石器時代の文化を示していた。
a4630.png
セリーノは突然、ひどいジレンマに陥(おちい)った。驚くべき発見があったのは探検の最後の日だった。暗くなる前に、みんな、キャンプに戻らなければならない!
a4631.png
セリーノ「我々に残された時間はなかった。はっきりしないけど、多分数ダースの遺骨を見たはずだ。しかし、車に戻らなけりゃあいけなかったんだ。でないと危険だ。で、車を運転してキャンプまで戻った。発見場所の位置はGPSに記録しておいた。いつかきっと戻ってこよう、っていってね。戻ってきて、そこが何だったのか調べようって。」
a4632.png
人骨は砂の中から救い出され、生きていた印を語る時期が来るまで待たなければいけなくなった。しかし・・・次に訪れるまでに、風に運ばれた砂は彼らを消し去っているだろう。
a4633.png
セリーノ「きっと重要な発見だと感じていた。戻って来て調べ直さなきゃあいけないって。このまま放置して、全てを失うことがあってはならないって。」

セリーノはその後の10年間で、ゴベロに4回、戻ってきた。その都度、新たな人骨を発見した。
a4634.png
セリーノ「この墓場には何か妙なものがあった。」
探検の都度、詳細調査のため、シカゴ大学の彼の研究室にサンプルを持ち帰った。調べるにつれ、これらの人々が誰なのかという謎は深まるばかりだった。
a4635.png
セリーノ「我々の目の前の遺骨は10歳の少女で、横に伏せた状態で埋葬されていた。頭蓋骨は少し傾けられている。ここに右手があって、肩と左手、ここに左足、右足はその下にある。」
a4636.png
「足と一緒に折りたたまれているんだ。発掘している時、目を引き付けられる箇所があった。骨格としては角張り過ぎていた。で、これは何だろうって思った。」
それはこれまで誰も見たことが無いものだった。10歳の古代の少女の上腕には河馬(かばhippo)の歯から造られたブレスレットがあったのだ!
a4637.png
写真家ヘットウァー「ブレスレットだった!ブラシで土を取り除くと、宝石か何かの飾り物のように見えたんだ。本当に感動した瞬間だったよ。とても驚いた。」
a4638.png
墓から出現したものはこれらの人々が埋葬儀式という十分発達した文化を持っていたことを示している。遺骨を捨てる場所ではなかったことは明確だ。ゴベロは、これまでサハラで見つかった最も広大な、最も古い、巨大な共同墓地だったのだ。
a4639.png
しかし、砂漠の真ん中で、これらの人々は一体、何をしていたのだろう?どのように生活していたのだろう?

セリーノは答えを探すためにサハラに戻ることを決めていた。しかし、サハラにおける政局の不安定が彼の道を閉ざしていた。5年に渡る革命やテロ攻撃や内戦が熱砂の砂漠を更に熱くし、彼の訪問を不可能にしていた。
a4640.png
5年間の発掘サイトからの隔たりはセリーノにとって最も長い空白だった。しかし、待ち望んでいた、わずかな好機がやってきた。40人のニジェール軍兵士の護衛を受けてゴベロに戻れることになったのだ。
a4641.png
セリーノ「もし、革命や政府の変化が起きているのがニジェールでなかったら、リビアか別の土地で起きているよ。砂漠は砂と同じで、いつだってじっとしてくれないようだからね。」

彼は残されている骸骨に何が起きているかを自分の目で確かめ、心配事が間違いだったことを早く確かめたいと思っている。
a4642.png
セリーノ「みんなゴベロに戻るべきじゃあないって言っていた。時間という砂の中にかき消されてるだろうからってね。もう新しいものはないよ、サイトに戻ることは無理だよって言ってた。でも今、我々はその入り口まで来ているんだ。あと50Kmだ。もう直ぐだよ。」

「到着だ。ここでキャンプしよう。やっと戻ってきたなぁ。疑問に決着を付けなけりゃあ。」
a4643.png
研究者、骨の専門家、地質学者で編成された調査チームは、直ちにテントの設営に取り掛かった。彼らは、かつてここで暮らしていた人々に関する謎をとく手掛かりを早く見つけたいと熱望していた。人々の遺骨はおよそ70エーカー(1エーカー=4千㎡)に渡る3つの埋葬地に広がっていた。多くの人々が永眠している霊場だ。埋葬地には東の端のG1から西のG3まで名前が付けられた。
a4644.png
セリーノ「最初に来た時のことは決して忘れないだろう。私はゴベロで座り込んで遺骨を覆う砂をブラシで取り除いていた。そうしながら、この遺骨こそが私と同じ人類だって気持ちに打たれていたんだ。」
a4645.png
「歯が見えて来た、随分すり減っているが、それほどひどくはない。多分若い人だ。恐竜の骨を探している時は、いつだって我々と全くことなるものを掘り出している。大きくて、奇妙で、奇怪であればあるほど、価値があるんだ。でもここで掘りだそうとしているのは私と同じ人類の骨だ。同じ人類の目をのぞきこみながら発掘するんだ、背筋がゾクゾクしながらね。」
a4646.png
発掘で遺骨が次々に現れてくると、あることに気付いた。これらの丘は一つの文明に対する神聖な場所ではない。少なくとも2種類の異なる人骨が埋葬されている!
a4647.png
ゴベロで見つかった遺骨の70を炭素年代測定すると、最初の人々はおよそ1万年前にゴベロに定住を始めていたことが判った。ナイルの最初のピラミッドよりもずっと昔だ。
a4648.png
1千5百年間、ゴベロで遺体を埋葬した後、人々はどこかに消えてしまった。

その後1千年して別の人々がやって来た。
a4649.png
彼らもエジプト人よりも前の人々だ。この人々は2千5百年間、住み着いていた。

ゴベロに最初に住んでいた人々の遺骨は黒っぽい。背が高く、腕力もあったようだ。頭蓋骨は長く、楕円形で、眼窩も大きい。彼らの後にやってきた人々の遺骨には黒いシミのようなものはない。頭蓋骨は上に向かって高く、細く、眼は小さく、骨は脆(もろ)い。2つの異なる人種が、数千年を隔てて、同じ場所で砂の中に埋葬されているのだ。
a4650.png
セリーノ「それは驚くべき事実だった。彼らの頭蓋骨は、辺り一面に散在していた。みんな5千年以上前の人たちだ。彼らは、5千年に渡ってこの地にやって来ていた。みんな、エジプトのミイラよりも古い時代の人なんだ。ゴベロはきっと特別の場所だったんだ。」

しかし・・・どんな場所だったというのだろうか?この砂漠で、どんな方法で、長い間、人々は暮らし続けることができたのだろう?調べてみると、一帯には他の骨も散乱していた。人の骨よりももっとあり得ない骨だ。それがヒントを与えてくれた。

セリーノ「謎は深まった感じだった。小魚の骨がある!この小さな骨は亀(かめ)のものだ。これは哺乳類の骨。」
a4651.png
魚の骨、亀の甲羅、そして、もっと驚くべきものもあった。
セリーノ「これは河馬(かば)の足首の骨だ。水が好きな動物だ。水なしでは暮らしていけない。その河馬の骨が砂漠にあるんだ!」

彼らは砂漠の真ん中で何をしていたのだろう?サハラが砂や岩ではなかったということだろうか?その答えは太陽の周りを移動している地球の動きに関係している。1万2千年前、地球の楕円軌道は太陽に近づいていて、地軸の傾きは、北半球で今より輻射熱が多い状態にあった。暖かい状態が続き、水蒸気も多く発生していた。それで雨をもたらすモンスーンが北の方向にもやって来て北アフリカに貴重な水をもたらし、沢山の湖や川が木々や草原を潤していた。
a4652.png
“緑のサハラGreen Sahara”と呼ばれる時代だ。
a4653.png
それは5千年続いた。体長1.8mのナイル鱸(すずき)といった魚や、河馬のような大型動物、キリンも繁殖していた。長い間、科学者たちは、サハラにも人々が暮らしていたと信じていたが、ゴベロが見つかるまで、どこで、どんな人々が暮らしていたのか、何も証拠を持っていなかった。
a4654.png
セリーノ「科学的な観点で言えば、今回の発明は重大なものだ。何故かと言えば、緑のサハラと乾燥したサハラは氷が溶けて以来の大きな気候変動だからだ。過去1万年の中で最も大きい変化だ。私の後ろに広がる砂漠を見てくれよ。」
a4655.png
「そこは昔、オアシスがある楽園だったんだ、沢山の動物がアフリカのあちこちから水を求めて集まっていて・・・象や、河馬や、水が好きな鰐や、1.8mの魚もね。私たちがここで成し遂げたいと思っているのは、ゴベロを出来るだけ深く理解するってことだ。それなしでここを離れたくはないね。」

ディディール「この遺体は手を頭の上に上げているね。」
a4656.png
ディディールはセリーノのゴベロ探検にいつも同行している。魚や海辺の生物の専門家で、ゴベロがどうして今のようになったのかを説明する時、地元の言い回しを引用するのが好きなようだ。
ディディール「“アマン・イマン”つまり“水は命”だ。“ゴベロ”は正に“水”だ。彼らは生活していた。何故なら彼らには水が有ったんだ。巨大な湖も有った。湖には魚も、カエルも、亀も、象もいた。彼らは大きな生物多様性をもっていたんだよ。」
a4657.png
「そして、当然だけれど、この生物多様性が人間を引き付けたんだ。大勢の人々が湖の周りに居住地を造った。その一つがゴベロということさ。」

現在のサハラは緑とはほど遠い。調査チームが古代の湖の近くにおける生命の様子に関する証拠を探している時も、秒速18mの風が途絶えることなく吹き渡っている。
a4658.png
風は祝福でもあり、呪いでもある。風なくして骨は地上に現れなかった。しかし、骨が現れると、風は骨を削り取っていく。だから、発掘作業は残されていた痕跡を風が消し去る前に探し出す“風との競争”だ。調査チームの目標は埋葬地に埋められた異なる人骨から何か遺物を収集することだった。人々がどんな暮らしをしていたか、教えてくれるかも知れない。
a4659.png
古い人々は黒っぽい骨をしている。キフィアンKiffian文化のキフィア人だろうと考えられている。ゴベロで見つかるまで、誰も実際のキフィア人の頭蓋骨や遺骨を見たことが無い。考古学者たちは、彼らの存在を、主に特徴的な模様が付いた土器の破片を通じて知っていた。
a4660.png
今回、ゴベロで見つかった残留物は、人類の歴史における大きな空白を埋め始めることになった。発見された古代の骨は、彼らの生活の様子を、どの位、我々に話してくれるのだろう?もし、彼らが語りかけていることを理解できれば、多くのことが判るはずだ。

クリス・ストジャノスキーはアリゾナ州立大学の生物考古学者だ。ゴベロで回収された骨の半分以上がテンプTempeにある彼の研究室に運ばれてくる。
a4661.png
ストジャノスキーは古代の人々の骨を保管するのに、プラスチックの箱を使う。人々が冬の衣類を保管する時に使うものと同じだ。
a4662.png
ストジャノスキー「まずは足の指から骨を並べていこう。」
彼は、骨を一つずつ並べていって人骨全体を見事に再現することができる。
a4663.png
「これは足首の骨・・・これは腓骨(ひこつ:膝から足首まで)、これは脛骨(けいこつ;腓骨と並行にある骨)、これは・・・」
a4664.png
骨を置いていくたびに人間の様子が現れてくる。
「この骨の全体の様子から、ここに筋肉がついていたはずだ。十分発達しているから・・・体力がある人間だっただろう。(mh以降も復元作業が続きますが省略します。) もし1万年前、アフリカ、つまり今のサハラ一帯、に棲んでいたなら、そこは湖周辺の肥沃な場所だったはずだ。主要なタンパク質源は狩猟か、狩猟なら活動的でなければいけなかったはずだし、漁業だとすれば、人間と同じ大きさの魚を獲っていたわけだから、恐らく手造りの銛(もり)で船上から獲っていたんだと思う。これらの活動で食糧の全てを確保していたはずだ。そうした生活習慣の結果が、この骨というわけだ。」
ストジャノスキーにとって最高のヒントになるものは、時には見えないところから現れる。例えば腕の骨は平和に暮らしていた人々の証拠にもなる。
ストジャノスキー「尺骨(前腕の骨)や橈骨(尺骨に並ぶ骨)だ。何かで殴られそうになった時に、腕で庇(かば)おうとして、手をこう上げるだろう?何かが当たれば、前腕の骨に影響が出る。」
a4665.png
「でも、ここにある人骨の腕には傷がないんだ。ゴベロで見つかった骨の全てで見当たらない。小さいが、一つの証拠さ。つまり、彼らには防衛が生活の一部になっていなかったっていうことだ。」

発見された骨から、キフィア人は丈夫で体力が強く活動的で、しかし平和な生活を送っていたことが推察された。彼らは身長も大きかった。骨の持ち主の多くは身長180cm以上だ。
a4666.png
それは彼らの埋葬方法を特徴的にしていた。彼らは薪(まき)の束のように結び上げられていたのだ!
a4667.png
ストジャノスキー「ゴベロの古い埋葬を見ると、遺体はきつく曲げられている。つまり、手は体の直ぐ近くに、掌(てのひら)は顔の近くまで持ち上げられている。大抵の場合、足は体に密着するように持ち上げられ、大抵は顔に届くくらいだ。それで、大きな人間も、こんなに小さな束のようになっている。」

発掘がほとんど完了すると、遺骨はさらなる疑問を投げかけてきた。
セリーノ「これは頑丈な人々だ。でも墓の中では体を縛(しば)り上げられている。」
a4668.png
「膝(ひざ)が顎(あご)の直ぐ近くまで届いている。そして足は交差している。これが人間一人の全ての骨だというんだから驚きだ。直径25cmの筒にも入りそうだよ。1万年前はこの方法がゴベロの埋葬地では一般的なんだ。」

何故、彼らは、こんな方法で埋葬されていたのだろう?この男の死体は、死んで直ぐ、死後硬直が始まる前、誰かによってこんな形にされた。誰かは死体の足を交差し、手を注意深く口の前で交差させた。これらの一つ一つは象徴的な何かを思わせる。しかし、記録されたものがなく、謎は解かれないまま残されている。
a4669.png
キフィア人の埋葬地は、暗い茶色の場所だ。向きは近代の墓場のように、意識的に配置されている。一番古いものは1万年前だ。新しい時代に造られた墓は、明るい茶色の場所で示されている。墓の向きは明確な決まりもないようで一定ではない。
a4670.png
これは“テネリアン”として知られる、新しい人々の骨だ。短くて細身だ。
a4671.png
彼らは横を向いた姿で埋葬されている。眠っているように見える。
a4672.png
キフィアンの墓と異なり、テネリアンの墓には文明のヒントが一緒に埋葬されている。
a4673.png
河馬(かば)の歯で造られたブレスレットを付けた10歳の女子はテネリアンの墓から見つかった。

これ以外にも奇妙な発見がある。
写真家ヘットウァー「この男は中指を口に入れている。なぜそんな恰好で埋められたのか、誰も思いついていない。」
a4674.png
「もっとも綺麗に残されている遺骨の一つで、頭を囲む大きな壺がある。何故かは判っていない。あなたならどう思います?」
a4675.png
幾つかの埋葬地ではキフィアンとテネリアンの墓が混在している。この男はテネリアンの時代に生きていた。しかし死んだ後で体は半分に曲げられている。膝(ひざ)は頭の上まで引き上げられている。そして彼の背中を覆う大きな亀の甲羅(こうら)と共に埋葬されている!
a4676.png
墓場から得られるこれらの手掛かりは死が儀式と強く結びついていることを暗示している。しかし、日常の暮しぶりはどんなものだったのだろうか?それを示すものは残されていないのだろうか?サリーノのチームはゴベロ文明の証拠を探してテレーネTereneの砂漠をブラシでこすりまくっている。砂の山を崩しては篩(ふるい)にかけ、小さな何かが残っていないか調べている。
a4677.png
女性「私たちはこれを破片って呼んでいるけれど、工具を造る過程で生まれたものよ。」
セリーノ「ゴベロみたいな場所では、沢山の手掛かりが残されていて、何か見つかる可能性があるんだ。人間の歴史に数ページを付け加えることができるかも知れない。」
先史時代のゴミ捨て場は“貝塚midden”と呼ばれていて、何百もの日常品が見つかる。
a4678.png
サハラが緑だった頃、湖から離れた場所に暮らしていた人々の様子を思い描くのに役立つ。水を求めて移動する動物を追いかけていた人々は、先を尖らせた石で狩猟していた。棘(とげ)のある銛(もり)や細心の注意を払って造った釣り針で魚を獲っていた。
a4679.png
容器を模様で飾り、石や象牙から飾りのビーズを造っていた。つまりキフィアンは狩猟集団だった。主に水に基づいた“もの”に頼っていたようだ。というのは銛(もり)が沢山見つかっているのだ。一方、テネリアン文化では、矢や弓を使う狩猟が主力だったようだ。これらの道具は今でも沢山見つかっている。」
a4680.png
これらの先史時代の人々が使っていた道具を我々は今、手にすることができる。しかし彼らが棲んでいた土地を理解するのは、そう簡単ではない。彼らの棲んでいた世界について、我々はどのくらい、知ることが出来るのだろうか?
a4681.png
セリーノはゴベロのかつての様子を体感的に再現しようと考え、新しい工具を使っている。
セリーノ「結局、基本となる地図が必要だ。墓の数は多いし、調べなけりゃあいけない遺物も沢山ある。」
今から、何処に何があるのかを表わす地図を作るのだ。
セリーノ「ゴベロでは、昨日が今日見える。You can see yesterday today.それを特殊な手法で地図化できないことはないはずだ。十分な正確さで、人が棲んでいた頃の5千年前に湖がどうだったのかを想像できるようにね。」
地図作りをやっているのは野外技術者ニール・ピーターソンだ。しかし、どんな風にして何もないような砂漠を地図化するというのだろう?
ニール「最も簡単な方法はメジャーやコンパスで寸法や距離を測定して、何が何処にあるのかを明確にすることだ。」
a4682.png
「更には遺骨の様子を絵に描く。これらは最も簡単で重要な要素になる。」

セリーノ「4枚の絵を描けば、このグリッド全体が判ると思うよ。」
ニール「グリッドを組み合わせて、この大きさの面積のグリッドをね。それから発掘サイトでの位置を確認する。これが一つの方法だ。」
a4683.png
しかし、今回の探検では、ニールはもう一歩踏み込むつもりだ。地形をレーザービームで走査して、砂丘の起伏を調べるのだ。ニール「この中心から光ビームを発射して、内部の時計機能で光が戻ってくるまでの時間を計って距離を求める。それを1秒のうちに数千回繰り返してあらゆる方向でデータを収集するんだ。」
a4684.png
ニールはレーザ測定で得られた像を発掘サイト一帯の写真や土壌科学者が集めたデータと組合せて、ゴベロの三次元の地図を創り上げる。地図には、発掘情報を付け加えることも可能だ。
a4685.png
ニール「発掘サイトを再現するには、まず、どのように見えているかを知る必要がある。それを定量化してデータとして嵌め込んでやらなけりゃあいけない。でないと仕上がらないんだ。」
その結果得られた映像は、ゴベロにある墓がどうして何千年後の今も残されることになったのかを明らかにしてくれた。墓の全ては砂丘の上にある。その砂丘は砂漠に在る他の砂丘と異なり、ほとんど位置が変化しない!
a4685a.png
理由?それは湖の沈殿物で出来た岩で固定されているからだ。そうでなければ、砂丘は風と共に彷徨(さまよ)い、骨も一緒にどこかに移り去っていたはずだ。

調査チームが収集していたデータも活用して、古代の湖の輪郭が見え始めた。ゴベロの水は砂丘の間にあって、水深は3mだった。
a4685b.png
分析は別の、興味ある事実も明らかにしてくれた。湖の水位は変化していたのだ!凡そ8千5百年前、水位は上昇した。どのくらいかは、今も正確には判っていない。しかし2種類の遺骨の間に見られる大きな違いのひとつの中に重要なヒントがある。キフィア人の骨は黒っぽい。何故なら、長い時間、恐らく何世紀も、水中に没していたからだ!
ストジャノスキー「ある時期、湖の水位が上がり、砂丘の頂きも水面下にあった。その時期は砂丘で埋葬が出来なかったのは間違いない。」
化石化のためには、墓は、何年もの間、水中に没している必要があったはずだ。骸骨の中を流れる水が、体内に元々あった鉱物を洗い流し、大地の鉱物を持ち込んだ。
a4685c.png
ストジャノスキー「骨が水で覆われていたことで化石化され、骸骨には黒シミが出来たんだ。」

そして最初の埋葬から数百年後、過酷な旱魃(かんばつ)が湖を縮小し始め、キフィア人は別の地に居住地を移さなければならなくなって歴史から消えていった。
a4685d.png
それから1千年後、水がゴベロに戻ってくるとテネリア人が移り住み始めたのだ。」
研究室の作業員のエリン・フィツガーランドはテネリア人の墓の発掘作業をしている。その時、新しい物語が始まった。
エリン「顎(あご)の辺りを発掘していたら、上腕骨の辺りに・・・」
その墓には一人の大人の頭蓋骨が、風化して半分だけ残っていた。それ以外にも何かあった。砂で埋まっていた大人の腹部辺りに。頭蓋骨だ。小さくて、脆(もろ)くて触ると壊れそうだった。
a4685e.png
セリーノ「信じられないよ。」
エリン「砂を除いて遺骨が見えるようにしてみると、玉子の殻(から)のように脆(もろ)いことがわかったの。繊細で、ブラシじゃあなく、息で砂を吹き飛ばしてからカバーをかけ、ポール・サリーノの所に行って、それから一緒に戻ってきて確認したの。」
サリーノ「いつ見つけたの?今日?」
男「昨日だ。私は肘(ひじ)の辺りの砂をブラシで除去していた、そうしたら頭蓋骨のようなものが見え始めて来たんだ。」
エリン「もし、直ぐに彼女(mh大人の遺骨)のそばに埋葬されたのじゃあなければ、もっと違う状態だと思うの。赤ん坊の頭蓋骨よ。」
脆い頭蓋骨はとても小さく、骨が薄く、一見したところ乳児のものだった。
セリーノ「小さな頭蓋骨だ。でも形は完璧に残っている。砂のサンプルを採るまで、ブラシで掘り出したくないよ。」
彼はある仮説を思いついた。
セリーノ「とても乱暴な推定だけど、子供を産むと直ぐ死んだ女性だ。生まれた子も母と一緒に死んだんだ。我々の責任は好く調べて全てを明確にすることだ。すごい発見だよ。」
エリン「これ以上、ブラシで砂を取り除いていくと、骨が壊れてしまって、正確な事がわからなくなるだろうから研究室に運んで注意深く作業することが必要だって思ったの。」
そのためには、まずその墓を完全な状態で1千Km離れた研究室に移すにはどうしたらいいかを考えねばならなかった。
セリーノ「頑張ってやってみるしかないな。砂がサラサラしているから、難題だよ。」
埋葬状態をそのまま保つため、骨の周りに液体接着剤をかける。
a4685f.png
この方法は時には不適切だと非難されることもある。多くの考古学者は人骨を一つずつ掘り出しては保管し、研究室で復元している。しかしセリーノは人骨を復元するのに恐竜の骨の他と同じ方法を採る。
セリーノ「誰もが完璧な状態で保管したいと思っている。だから砂を取り除く作業も含めて全て、研究室でやるほうがいいんだ。時には顕微鏡で覗きながらね。」
セリーノ「少し固まってきたけど、まだ脆そうだ。まだとても持ち上げられる状態じゃあない。」

接着剤を塗ったところで、セリーノとエリンは遺骨をアルミホイールtin foilで包んだ。その上から、骨折した足などを包む時のように軟らかい石膏(せっこうplaster)を塗った。
a4685g.png
セリーノ「石膏を塗って固めれば、壊れないし、世界中のどこへでも安全に運ぶことができる。この人がどんな事情で数千年前に埋葬されたのか、その物語を知りたいんだよ。それを研究室で見つけるんだ。物語は遺骨の中にあるから、今、バラバラにすることは出来ないんだ。シカゴに戻ってからじゃないとね。」

それから凡そ1年後、別の湖近くの居住地で、ゴベロの骸骨や手工芸品を積んだコンテナ・トラックがシカゴの西の倉庫を出発した。運転手はこれまで、いろいろな荷物を運んだ経験がある。
a4685h.png
運転手「何を運んでいるかっていうのは、大抵、知ってないよ。犬の餌かもしれないし、玩具かもしれない。コンテナに詰める物なら、何だって運ぶ。」
しかし、今回の荷物は6千年前の骨で、彼には初めての荷物だ。
運転手「神経質になるよ。この荷物のことは忘れられないだろうね。」
トラックがシカゴ大学に到着するのをポール・セリーノと彼のチームが待ち構えていた。
セリーノ「こんなに長くかかるとは思わなかったよ。」
彼らはゴベロの2つの埋葬地の骨を研究室に持ち込んで、新たなヒントを見つけようと数か月も待っていた。荷物には凡そ4百Kgの手工芸品と石膏で固められた30の完全な骸骨があった。シカゴはゴベロから1千Kmと5千年も離れている。しかしポール・サリーノの化石研究室には、サハラの骸骨の仲間は沢山ある。別の探検で持ち帰ったサンプルも棚やテーブルを埋め尽くしている。ここでは恐竜に焦点を当てている。数億年前の奇妙な獣(けもの)だ。
a4686.png
セリーノの研究室のスタッフが人類の謎の解明作業をするのは初めてだ。
ボブ・マセック「ポールが人間に関する初めての仕事を持ち込んできた時、私とは全く別の人類の骨じゃあないかって感じたよ。最初は少し緊張した。」
いよいよ、愛する恐竜を隅に移して、ゴベロから届いた新しい配送物に取り組む時だ。
a4686a.png
タイラー・キーラーも自分に身近な生物の遺骸を取り扱いながら奇妙な感情を覚えていた。
タイラー「見た時、人骨に間違いないって思ったね。目の形、歯、鼻・・・付着している土を取り除いて綺麗にしていくと、興味深くて、普通じゃあなくて、ユニークな骨が目の前に現れてくるんだ。ある一人の人間を見ているって気がする。」
a4686b.png
エリンは彼女がゴベロで発見した人物との再会を1年間待ち続けていた。一つの塊の中に2つの頭蓋骨がある。恐らく一人の母親と生まれて間もない一人の子供だ。
エリン「ニジェールに戻ったような気がしたわ。もう1年もたったなんて信じられなかった。昨日のことのように感じたわ。また会えてとてもうれしかったわ。」
マセック「じゃあこれを真っ直ぐ上に持ち上げよう。」
a4686c.png
中には、彼らが発見した状態のままの墓があった。調査の妨げになる砂漠の風と砂はないけれど。この研究室で、本当の物語が明らかになるのだ。

セリーノ「十分な環境の中で、6千年前に起きたことについて墓が我々に語りかけているものが何かを探す大事な機会だ。これから忙しくなるぞ。Now the hard work begins.」
作業しているのは特殊な人々だ。芸術家のセンスと科学者の技術を併せ持っている。細かな証拠品も全て集められ、番号が付けられ、カタログ化される。小さな欠片(かけら)が時には古代の謎を解く鍵になることもある。
a4686d.png
2つの異なる墓がある埋葬地のものの中から、考えてもいなかったものが現れた。
エリン「最初に思っていたより大きいみたいね。」
当初は赤ん坊のものだと思っていた頭蓋骨は、ゴベロで見たよりもかなり大きそうだ。これは骸骨が研究室に到着して以降にいくつも見つかった驚きの中の一つだった。
セリーノ「ワーォWow!考えていたよりも大きい頭蓋骨だな。これが何か、まだ判らないね。頭蓋骨の一部がこんなふうに上に向いているみたいだ!
エリン「えぇ、ここには別の乳歯があるの。」
a4686e.png
セリーノ「そうだね。そしてここにも見つかっている。」
赤ん坊よりも大きい第二の頭蓋骨だけではなくて・・・
エリン「この乳歯も見つかっているのよ。」

骨の周りに散乱している歯は別のヒントを与えている。
セリーノ「これは6歳の臼歯(きゅうし)だ。乳歯が抜けて生えて来たんだよ。赤ん坊じゃあなくて、少し年配の子供だと思う。5歳か5歳半くらいだ。」
お産の時に2つの死が起きたことが想定されていたが、そうじゃあないようだ。
セリーノ「わからない。何が起きたんだろう、不思議だ。大人の女性と5,6歳のこどもが恐らく同じ時期に死んでこんな風に埋葬された時、何が起きていたのかは謎だ。それを解くには骨を全て調べなければ駄目だろう。」
しかし土を除去していっても、エレンは大人と一緒に埋葬された子供の謎を解く新しい証拠を見つけられなかった。
エリン「ひょっとしたら顔が全て壊れているんじゃあないかって思うわ。」
砂漠は骸骨にとっては厳しい環境だ。その上、2人の墓は砂から遺骨が見える状態だった。
セリーノ「そういうことは好く起きることだ。そんな時こそ科学が役に立つ時だ。推測と抗弁、仮説と評価だ。」
a4686f.png
セリーノ「それに、新しい情報をいつも受け入れる姿勢でいなければいけない。年少者の頭蓋骨かも知れない。とにかく、いつでも異なる結論を受け入れられるようにしている必要がある。それが、自分が期待していなかったものでもね。」

行き止まりに迷い込んだ時でも、湖の近くで暮らしていた人々がどんな暮らしをしていたのか知るための別の道を彼らは見つけていた。そのための近代的な道具を使う事もできた。この日の朝、セリーノは“アコーディオン男”というニックネームが付いた骸骨を、別の場所に持ち出した。
a4686g.png
シカゴ病院大学で重要なテストをするのだ。遺骨が見つかった状態を完全に保ちながら調査を進めるセリーノの手法は、体全体の骨を完璧に調べることを困難にしていた。そんな場合はCTスキャンを使って調査することにしていた。構造や骨の寸法や密度に関する明確な情報を与えてくれるので、アコーディオン男をデジタル解析する手助けになる。CTスキャンのデータはセリーノの研究室の卒業生の一人がアニメーション化してくれる。
a4686h.png
1万年後、このキフィア人が初めて立ち上がった。
a4687.png
CTスキャンの別のデータを使えば、5千年前のテネリア人の表情すら判る。
a4687a.png
ゴベロに残されていた記録はこれらの人々の全体像だ。彼らの骨や工芸品は人類の歴史の大きな空白を埋めてくれる。
a4687b.png
彼らが立ち上がるのや、彼らの目を見るだけでは、彼らの魂は理解しにくい。しかし、一つの特別な墓が、彼らがどんな人々だったのかを見せてくれる驚くべき実情を準備してくれていた。その墓は2006年に発掘されていた。
a4687c.png
セリーノ「私が砂漠のゴベロでその墓を見つけた時、半円状の頭蓋骨が見えて、人間のものだって気付いた。」
一つの墓にテネリア人は3人を埋葬していた。一人の大人と2人の子供だ。ここで何が起きていたのだろう?
a4687d.png
セリーノ「これが彼女の左足で、こっちが右足だ。」
研究室にもどってから、状況が明らかになってきた。
セリーノ「研究室に持ち込んで調べてみるまで、その複雑さがなんのためなのか、全く判っていなかった。現地では、きれいに発掘してなかったんだ。今見ると、右に居る女性は手を持ち上げて真ん中の第一の子供の額のところにその手を当てている。
a4687e.png
手で子供の頭を包もうとしているみたいだ。でも、後で気付いたことだけど、子供達は彼女の手をとても変わった風にして握っていたんだ、こんな風に。彼女の手も実際、交差していて、片方の手が別の手の上にあった。それが何を意味するのか、分かってはいない。」
a4687f.png
埋葬状態を判り易く表すため、セリーノと彼のチームは3人の骸骨の型を取って実物大のパネルにした。片面は太陽や風に晒されていた方だ。
a4687g.png
このパネルの裏面は砂の中に埋められて保存されていた側を示している。
a4687h.png
肋骨の位置から、右側の大人の女性が最初に埋められたことが判る。中央の子供の膝(ひざ)は母親の足の上に重なっている。二人目の子供は一人目の子供の首の上から手を延ばしている。そして3人の手は組み合っている。
a4688.png
砂から花粉が見つかったことから、セリーノはこれらの遺体が花のベッドの上に横たえられていたことを知っている。4つの矢尻が骨の下から見つかった。これは射かけられたものではなく、副葬品のようだ。

写真家のマイク・ヘットウァーは、この骨が見つかった時、サハラの現場にいた。
a4688a.png
ヘットウァー「こんな光景は滅多にみられるものじゃあない。雰囲気や思いやりや感情が墓の中に残っているんだ。彼らの写真は5千枚は撮ったと思うよ。」
a4688b.png
「全て、違った角度からね、太陽の位置も変わっている。時には夜も墓を訪れて撮影した。フラッシュを焚いてね。」
a4688c.png
「驚かされたのは、こんな場面を今まで見たことがなかったからだ。墓の上や下には花の痕跡が見つかった。彼らのことを本当に愛していた人達がいたのに違いない。発掘メンバーの何人かは彼らの骨を掘り出しながら涙を流していたよ。でも、ブラシで砂を取り除いて3人の骨を見たら、彼らがどんな人たちだったかという疑問が湧いてきた。腕の骨を見て、彼らが手を握り合っていることに気付いたんだ。埋葬者の誰かが彼らの手を握り合わせたんだ。」
a4688d.png
3人を並べ、手を握り合わせて埋葬したということは、3人は、死後硬直が起きる前の数時間内で一緒に死んでしまったということだ。
ストジャノスキー「誰も不思議に思うだろう、3人はどのようにして死に至ったのか?どうして一緒に埋葬されたのか?って。」
この疑問に答えるために、アリゾナ州のクリス・ストラジャノスキーは古代生物学者が手にすることが出来る最高の証拠を追跡している。歯だ。
ストジャノスキー「探そうとしているのは、死んだ時の出来るだけ正確な年齢だ。3人の墓にいた子供については、この歯を手に入れている。」
a4688e.png
人間の歯は子宮の中にいる時から生え始めて、20歳近くまで成長を続ける。歯は毎日、新しいエナメル層で覆われていく。しかし、病や飢饉などのストレスを受けると、それらが解消されるまで体はエナメルの生成を中断してしまう。歯を顕微鏡で調べると、これらのストレスが黒い斜線として現れている。
a4688f.png
誰もが体験するストレスの一つは誕生だ。
ストジャノスキー「新生児線がここに見える。」
a4688g.png
新生児線は科学者たちに人生の開始時点を教えてくれる。そして、丁度、木の年輪のように、歯のエナメル層を数えると年齢が判る。厳密には年齢ではなく、何日、生きて来たのかが判る。
a4688h.png
ストジャノスキーは小さい方の子供の歯を分析して、年齢を求めた。
ストジャノスキー「日々のエナメル層の成長を数えたら、この子は生まれて1806日位で死んだことが判った。」
つまり一番左の最も小さい子供は大体、5歳だったということになる。年長の子供は8歳だった。しかし、彼らは何が原因で死んだのだろう?
a4689.png
ストジャノスキーは子供達が無くなる最後の1ヶ月の間でのストレスの跡を見つけることはできなかった。つまり病や飢饉などが死の原因だったわけではない。
セリーノ「もし歯の中に、パターンが見つかったということなら、つまり何かのストレスを人生で体験していたなら、それは人生の終わり頃のはずだ。でもそれは見当たらなかったんだよ!」
セリーノはゴベロに生命を与えていた水を指しているのではないかと考えている。
a4689a.png
セリーノ「何がしかの原因で彼らは死に直面した。骨が折れている訳ではなく、病の痕跡もない。それに、彼らは3人ともかなりの年齢差がある。とすれば、彼らは多分、一緒に、そして突然、死んだんじゃあないだろうか。そして私が考え付く一つのことは、3人は近くの湖でおぼれたんじゃあないかってことだ。」
5千年前までなら、今は砂漠のこの土地でおぼれたってこともあり得る。
a4689b.png
その後、エジプトにピラミッドが造られる時代になり、モンスーンによる雨の領域は再び南下してゴベロの水は完全に干上がった。

サハラは我々が今知っている砂漠になってしまった。それまで5千年続いていた生活に終わりが来たのだ。もし、恐竜を追跡していた科学者が偶然、発見しなかったなら、当時の暮しを示す全ての証拠は永遠に消え去っていたかも知れない。
a4689d.png
セリーノ「発見というものは期待していた何かを見つけることではない。それは、多分、夢にも思っていなかった何かを見つけることだ。大切なのは、それが重要だって気付くことだ。それが発見の神髄だ。」
a4689e.png
セリーノ「今回の発見は多分、私が行った重要な発見になるだろう。ひょっとすると我々の世紀における最も重要な科学的な発見かも知れない。誰でも期待通りの発見をすることが出来るだろう。しかし大きな発見というのは、期待していなかったものを見つけることだ。ゴベロはその一つになった。」
a4689f.png
Mystery Ancient Skeletons in the Sahara | Unexpected Discovery || Documentary English subtitles
https://www.youtube.com/watch?v=P6NwTesXIBo
・・・・・・
「世界の不思議」をテーマに遺跡を特集したドキュメンタリーをYoutubeから採り上げて何度もご紹介してきましたが、古代文明では火葬の風習がないようで、骸骨とお付き合いするケースが多いことに今更ながら気付きました。
今回のYoutubeフィルムを初めて見た時、特に中段部の展開に新規性が感じられなかったのでブログ化は不適かな、と思ったのですが、フィルムの後半で登場した3人の遺骨を見て、これは是非、皆さんにもご紹介しようと思い直し、くどい説明部分は一部省略させて頂きながら完成させました。

フィルムでは“遺骨が語る物語を聞く”という表現が何度も現れます。火葬なら“灰が語る”ってことになる訳ですが、やっぱり、骨、それも体全体の骨じゃなければ物語は生まれない気がして、日本の火葬は寂しすぎるから見直されるべきではないか?などとも思いましたが、仏舎利の不思議でご紹介したように、我が尊敬するお釈迦様も火葬ですから、火葬で問題はないと思います。1万年後の子孫に感銘を与えるためには、骨壺を少し工夫して印象的にする方法が考えられます。遺影を釉薬で焼き付けるのもいいかも知れませんが、一番好きな言葉や、信条、子孫に伝えたい一言、自伝、なんかを書き記しておくのもいいかも知れませんね。お釈迦様の骨壺に「因果応報」「自灯明法灯明」なんて刻印されていたなら、真舎利かどうかも判るし、仏教の普及はもっと進んだことでしょう。みなさんも是非、ご検討下さい。

世界の埋葬方法についてネットで調べてもうまい資料が見つかりません。ヘブライ聖書から生まれたユダヤ教、キリスト教、イスラム教では最後の審判で人は生まれ変わることになっているので、遺体を灰にするのは厳禁じゃあないかと思います。お釈迦様が生まれたインドでは、ヒンドゥ教徒が多く、彼らは火葬して灰をガンジスに流すのが最高の弔いのようですね。中国は土葬が主体だとネットにありましたが真偽は不明です。日本でも、昔は土葬で、風呂桶のような棺(ひつぎ)を作る棺桶屋が商売になっていたようですから、火葬が始まったのは明治以降ではないかと推察します。

今上天皇(きんじょうてんのう)の明仁(あきひと)天皇は、火葬を希望し、既に内定しています。この話をニュースで聞いた時、素晴らしい天皇だと思いました。太平洋戦争に対する強い反省の心をもち、沖縄や東日本大震災の被災地などに何度も出かけ、いつも辛い体験をした国民と同じ気持ちを持とうと努める真摯な姿勢には、いつも心が打たれます。

(完)
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する