Mysterious Questions In The World

世界のミステリーをご紹介します。

シルクロードの不思議な質問(2):韻

新年あけましておめでとうございます。
シルクロードの不思議な質問(2)の前に、新年を寿ぐ大友家持の和歌を紹介しましょう。

    新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事
  万葉仮名表記:
    新   年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰

                         (2014年1月1日:Mystery Hunter)
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シルクロードの不思議な質問(2)
「漢詩は韻を踏み、日本の詩は韻を踏まないのはなぜか?」
                          2013年7月 Mystery Hunter

2013年6月の「悠久のシルクロードの旅」で徐福の子孫と称するK氏と知り合いになった。中国語に堪能で、横浜に住む実業家の奥さんと離れて伊東の別邸に暮らし、農作業の合間に原文で三国志を読むのを喜びとしている人だ。
K氏と私は不思議に気が合って、旅の間、埒もないことを話題にとりあげては話した。例えば、K氏の墓の始末の方法、1級管工事施工管理技術士試験に向けてK氏が今せねばならぬこと、株の売買における有るべき方針、などなど。話のネタは尽きなかった。実は、帰国後も、2人の地元である横浜上大岡で懇親会を開いて、ジョッキーと焼き鳥をはさんで旅の思い出を語り合い、楽しい一時を過ごすことができた。費用はK氏持ちで、私は漢語で書かれた論語、李白詩集、杜甫詩集をプレゼントした。

そのK氏の「シルクロードの不思議な質問(1)シルク」は既に生産技術研究会のネットワークで公開し、いろいろなご批判を頂いたとはいえ謎解きは完結した。今回は「その2」として「韻」にまつわるK氏の質問を紹介しよう。

「シルクロードの不思議な質問(2)韻」は、「質問(1)シルク」と同様、ゴビ砂漠を疾走するバスの中でK氏の口から飛び出した。私が何の気なしに見せた一枚の紙がきっかけだった。

出発の1カ月程前、日程や訪問先情報が書かれた資料が旅行会社から送られてきた。そこで私は、インターネットを駆使して現地の詳細情報を集め、旅先でも目を通せるよう印刷しておいた。4日目は敦煌を訪れ、夜光杯の製造直販店に立ち寄ることになっている。夜光杯は玉石から造られた杯で「漢詩でも有名」らしい。早速、その杯の資料と漢詩もネットからダウンロードして印刷しておいた。

ゴビ砂漠を走るバスの中では、K氏夫妻はいつものように前から2列目辺りの席に座っていた。私はと言えば、最後尾の5人席を独占し、車窓を走り過ぎる景色を眺めたり、次の目的地に関する資料に目を通したりしていた。
 「駱駝で行くと、あの地平線に辿り着くまで何日かかるんだろうか?待てよ。ゴビ砂漠を西に行くと地平線が絶え間なく現れ続けて、結局、2千キロ先のタクラマカン砂漠の果てまで行かなければならないんだよなあ!とすると、1日の旅程を40kmとして50日と言うことか????」

そうこうしていると、前に座っていたK氏が通路に顔だけ突き出し、そちらに行っても好いか?と身振りで訊いてきた。OK!とサインで返すと、K氏は、直ぐに狭い通路を歩いてきた。そしてまた、二人で、埒もない話題を取り上げて話をしては時間を潰した。

話の中で、私は日本から印刷して持参した年表、地図、訪問先のウィキペディア情報、などを、K氏に見せて準備の手際良さをそれとなく自慢した。するとK氏は、漢詩が印刷された紙だけ抜き取り、ぼそぼそ呟くように読み始めた。そして痛く感じ入った面持ちで「この紙を暫く借りて好いですか?」と言う。じっくり味わいたいらしい。そこで私は、別の紙の空白に自分でも読めそうもない下手な字で漢詩を手早く写し取り、「こちらは差し上げましょう!」と漢詩が印刷された紙を気前よくK氏に差し出した。

「本当に貰っていいですか?」「いいですとも!」と言い合って、その時はそれで別れた。暫くすると、また私が座っている後部席にやってきて「いい歌(詩)ですね!感動しました!中国語で読むと、好さが判りますねぇ!」と言う。

私も、漢詩、特に李白の詩は好きで、講談社現代新書「漢詩をたのしむ」(林田槙之助著)を今回も持参してきた。コンパクトな本で、李白以外に、孟浩然、杜甫、王維、岑参などの詩も収められている。しかし、王翰の夜光杯は載っていなかった。それで、鳴沙山での星空観賞ツアー(オプション)で、満天の星空のもと、夜光杯で葡萄酒を飲みながら詩を口ずさもう、と思って詩を印刷して持ってきたのだ。私は訓点(レ点や一二点)を付けた読み下し文方式で漢詩を読む。いわゆる「日本語読み」だ。それでも、詩が詠まれた時代の、人々の生活、自然、国の様子などに思いを馳せたりしながら楽しく鑑賞してきた。

「漢詩を中国語で読む?そういえば!」と思い出した。「昔、NHK教育TVの漢詩番組で、江守徹か中村吉右衛門が詩情溢れる調子で漢詩を日本語読みしたあと、中国人の張雲明氏が漢語独特の抑揚をつけて中国読みで朗読していたなあ。」

そこで「漢詩は中国語で詠まないと詩の好さが半分しか判らないんでしょうかねえ。」と言うと、「ところで」と前置きしたK氏の口から「シルクロードの不思議な質問(2)」が飛び出した!

「ところで、漢詩は韻を踏むのに、日本の詩は韻を踏まないのが普通ですよね。どうしてですかねえ?」

そう言うと、K氏はまた自分に聞かせるように夜光杯の詩を読み直し「これは日本に持ち帰って楽しみます。三国志だけでなく漢詩もやってみようかなあ。」と言い残して自分の席に戻っていった。

確かに!韻は漢詩の重要な要素だ!片や、日本の詩では韻は条件ではないし・・・韻を踏まない詩の方が圧倒的に多いようだ。漢詩と日本詩の韻の差はどこから来ているのだろう?

さて、K氏の「シルクロードの不思議な質問(2)韻に、みなさんならどう答えますか?

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質問における「漢詩」は、長安が都として栄えた唐(618年~907年)の初期に確立した「近体詩」とします。日本で漢詩と言えばほとんど近体詩です。それ以前の旧体詩で日本人にも知られている詩は僅かしかありません。

(補足)
1)Wiki「韻」
 詩文で、一定の間隔あるいは一定の位置で並べられる同一もしくは類似の響きをもつ語

2)日本の韻(?)の例-1:<万葉終焉歌 大友家持>
「新しき 年初め 初春 今日降る雪 いやしけ吉事」
万葉仮名表記:
 新   年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰

上の大友家持の歌は万葉集の全4516首中、4516番目の歌なので「万葉終焉歌」と呼ばれている。歌会始で披露されたなら、初めから終わりまで、少し高めの声(ドレミ音階のラ)で、各節の終わりの音だけ引き伸ばして、ゆったりとした調子で詠まれるはずだ。それは万葉の頃からの朗読作法だと思われる。和歌の中の「の」は一つの音だけの助詞(格助詞)でWiki「韻」の定義でいうところの「語」と異なるので、韻と言えないかも知れない。

3)日本の韻(?)の例-2:<雀のかあさん/星とたんぽぽ 金子みすず>
<雀のかあさん>
「子どもが小雀つかまえ。その子のかあさん笑って
雀のかあさんそれみてた。お屋根で鳴かずにそれ見てた。」
<星とたんぽぽ>
「青いお空の底ふかく、 海の小石のそのように、 夜がくるまで沈んでる、
畫のお星は目にみえぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。
散ってすがれたたんぽぽの、 瓦のすきに、だァまって、 春のくるまでかくれてる、
つよいその根は眼に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。

いずれもTVコマーシャルでよく耳や目にした詩だ。女性ナレーターの、歌会始のような抑揚のない音調が全体を制している。

大伴家持の和歌や金子みすずの詩では、赤字の部分で「韻」を踏んでいるような感がある。しかし、和歌、俳句、詩では、韻は必要条件ではなく、韻を踏まないものが圧倒的である。
なお、金子みすず(山口県仙崎(現長門市))は西条八十に認められ詩壇に登場し、後に、その西条八十から才能を妬まれて冷遇され失意の底で夭折した。北原白秋は、彼女を「童謡詩人」と呼び、その詩は亜流であると評している。

4)中国の韻の例-1:<涼州詞 王翰>
   葡萄美酒夜光  葡萄の美酒、夜光杯
   欲飲琵琶馬上  飲まんと欲すれば琵琶馬上に催す
   酔臥沙場君莫笑  酔って砂漠に臥すとも、君、笑うことなかれ
   古来征戦幾人  古来、戦に行き、幾人が帰って来たというのだ。

杯(bei)、催(cui)、回(hui)が上平声十灰〔かい〕韻

5)中国の韻の例-2:<春望 杜甫>
   國破山河在  国破れて山河在り、
   城春草木  城春にして草木深し
   感時花濺涙  時に感じては花にも涙を濺(そそ)ぎ
   恨別鳥驚  別れを恨みては鳥にも心を驚かす
   烽火連三月  烽火 三月に連なり
   家書抵萬  家書 万金に抵(あた)る
   白頭掻更短  白頭掻けば更に短く
   渾欲不勝  渾(すべ)て簪(しん)に勝(た)えざらんと欲す

深(shen)、心(xin)、金(jin)、簪(zin)が押韻
(上記の2つの漢詩と韻についての説明はネットからコピーしたものに私が辞書で探した拼音(ピンイン(pinyin):アルファベットの発音表記)をつけた。)

漢詩は、声を出して詠むと味が深まる、言い換えると韻の効果が発揮される、というので、ネットで検索すると朗読URLが一緒に見つかることが多い。日本人の中にも中国詠みで漢詩を楽しんでいる人が多いということなのだろう。本物の愛好家と言えそうだ!

漢詩ルール解説:
Wiki「漢詩」「韻」より:
1)近体詩:唐以後に定められた新しいスタイルに則って詠まれた漢詩で、句法や平仄、韻律(平水韻)に厳格なルールが存在する。句数・1句の字数から五言絶句・七言絶句・五言律詩・七言律詩・五言排律・七言排律に分類される。
2)韻:詩文で、一定の間隔あるいは一定の位置で並べられる同一もしくは類似の響きをもつ語
3)平仄(ひょうそく、中国語 píngzè):中国語における漢字音を、中古音の調類(声調による類別)にしたがって大きく二種類に分けたもの。漢詩で重視される発音上のルール。平は平声、仄は上声・去声・入声である。四つを合わせ「四声」と言う。

(完)
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